胸に刻む鎮魂や警鐘 「ノクターン--夜想曲」フィナーレ
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県内最終公演を終え、万雷の拍手に応える倉本さん(中央)と出演者=7日、福島市・県文化センター(矢内靖史) |
脚本家倉本聰さん(80)が震災と原発事故で被災した本県を舞台に書き下ろした演劇「ノクターン--夜想曲」は7日、福島市の県文化センターで県内最終公演を迎えた。震災、原発事故から4年が経過しようとする中、倉本さんが「鎮魂」や風化への警鐘などの思いを込めた演劇は、県民が忘れることのできない思い、決して忘れてはいけない思いを舞台から伝えた。
福島民友新聞創刊120周年記念事業として上演してきた県内4公演のフィナーレ。
倉本さんが主宰する演劇集団「富良野GROUP(グループ)」のメンバーが、津波で家族を亡くし、原発事故で故郷に帰ることすらできない被災者らの心の葛藤、困難に見舞われながらも必死に生きる県民の姿を全身全霊で演じ、満席の観客を大きな感動へといざなった。
終幕後のカーテンコールでは、倉本さんと出演者が鳴りやまない拍手に応えていた。
立ち直る姿に境遇重ね 「ノクターン--夜想曲」フィナーレ
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「ノクターン-夜想曲」の公演に詰め掛けた観客 |
福島市の県文化センターで7日に公演された演劇「ノクターン--夜想曲」。満員の観客は、震災、原発事故のつらい経験から懸命に立ち直ろうとする県民を描いた作品にそれぞれの境遇を重ね、思いを新たにした。脚本家倉本聰さん(80)が県民に寄り添うという思いを込めて書き下ろした演劇は、大きな感動を与え、県内公演のフィナーレを飾った。
福島市の会社員佐藤由美子さん(51)は涙を浮かべ「原発事故の悲惨さにあらためて気付かされた。反原発や再稼働について簡単に意見することはできない」と振り返った。震災当時、東京で暮らしていたという同市の会社員紋谷貫平さん(29)は「福島が遠い場所のように感じたこともあったが、公演を通して地元への思いが一層強まった」と感慨深げに話した。県外からも多くの人が訪れた。宮城県大崎市の農業高橋博之さん(42)は「復興は、まだまだこれから。大震災から『まだ4年だよ』と訴えられた気がする」と話し、「苦しんでいる被災者のことを忘れてはいけない」と誓った。
「福島で生きていく以上、逃げられない問題」。4月から県内の大学に通う福島市の鈴木賛(たすく)さん(18)は、被災した本県の状況について考えさせられたという。「復興実現の答えがいつ出せるか分からないが、向き合っていくのが県民の使命」と力を込めた。
出演者 葛藤語る
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大山茂樹さん |
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森上千絵さん |
全国各地の公演で、未曽有の災害に直面する県民の姿を演じてきた出演者は、特別な思いで県内公演のフィナーレを迎えた。津波で後輩を亡くした新聞記者役を演じる大山茂樹さん(37)は「福島の新聞記者は被災者の方とどのように接し、話を聞くのかと悩んだ」と話す。稽古中に倉本聰さんから「その芝居じゃ、東京の記者だよ」と注意されたこともあったという。「人を傷つけるかもしれないが、伝えなければならないことは伝えるという葛藤が福島の記者にはあると思う」。大山さんもまた葛藤の中で自らの答えを導き出した。
ピエロ役の森上千絵さん(42)は津波で娘を失った看護師の思いを訴える難役に挑んだ。「津波で家族を失った方々の前で演じる怖さがあった。実体験していない中で想像して近づくしかなかった」。娘の命を救えなかった母親の思いを訴える姿は、観客の心に深く刻み込まれた。「思い出したくないことを思い出させた場面があったかもしれないが、それでも人間は生きていくんだというメッセージを届けたかった」。森上さんは演技という形で舞台からエールを送っていた。
県内公演「報われた思い」 倉本聰さんに聞く
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県内最終公演を振り返り「報われた思い」と語る倉本さん |
演劇「ノクターン--夜想曲」の県内公演を終えた脚本家の倉本聰さんに、現在の心境などを聞いた。(渡辺哲也)
--県内公演は万雷の拍手でカーテンコールを迎えたが、心境は。
「報われた思いだ。脚本を書く前は無謀な挑戦で、非常に難しいと思っていた作品だった。福島の現状をどのように作品として伝えれば良いのか、苦しんだ部分だったが、何か神様が味方してくれたかのようにも思える。(多くの観客から)『福島をきちんと描いてくれてありがとう』と言われたことがうれしかった」
--「報われた」という思いに至るまでには本県で度重なる取材活動など、苦労した点も多かったのでは。
「『ノクターン--夜想曲』にのめり込み、そのことだけを考えてきた2年間だった。取材を重ね、福島の中に入れば、入るほど、多くの人に触れることができた。劇中で男が言う『人間っていいな』などの言葉は取材を重ねた上で出てきたセリフだ。最初は思いつかなかった。取材を重ねながら、たどり着いた境地があった」
--震災、原発事故から間もなく丸4年を迎えるが、県民へのメッセージは。
「帰還が難しい地域も多くあるが、可能であるならば、一人でも多くの人が古里に戻れるよう願っている。古里はいいものだ。古里を決して忘れないでほしい」
福島で県内最終公演 迫真の演技、復興へ思い
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「ノクターン-夜想曲」の県内最終公演の一場面 |
7日に福島市の県文化センターで上演された福島民友新聞創刊120周年記念事業「ノクターン―夜想曲」の県内最終公演では、出演者が迫真の演技を見せ、詰め掛けた観客が本県の現状や地域復興に思いをめぐらせた。
会場ロビーには、脚本演出の倉本聰さんの書籍やノクターン関連グッズを並べ、来場者が思い思いに手に取った。公演終了後には、倉本さんに花束が贈られる場面も見られた。
震災、原発事故後の福島民友新聞の紙面や報道写真も展示。来場者が「3・11」からの月日を振り返った。
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ノクターン-夜想曲」の県内最終公演の一場面 |
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公演終了後、観客から花束を受ける倉本さん(左) |
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倉本さんの書籍やノクターンの関連グッズが人気を集めた |