【 榮川酒造 】 できる限り人の手で<磐梯町>

 
「もろみ」をかき混ぜる「かい入れ」の作業を行う塚田さん。伝統的な手作りを信じる=磐梯町・榮川酒造

 「東北に酒あり」。磐梯山麓の風光明媚(めいび)なゴールドライン南端に酒蔵を構えるのが榮川(えいせん)酒造(磐梯町)だ。日本名水百選に数えられる磐梯西山麓湧水群の地下水を直接くみ上げ、惜しみなく酒造りに生かしている。

 社長の宮森優治さん(50)=写真・下=が敷地内の地下水を飲める場所に案内してくれた。勧められて口に運ぶと、「丸み」があって甘い。先代久治さんがほれ込み、酒蔵を移してまで手に入れた口当たりのいい名水だ。年間を通して水質が変わらず、酒造りに適しているという。宮森さんは「平安時代に高僧徳一(とくいつ)の下、慧日寺(えにちじ)を中心に数千人もの僧兵がいたのは、この湧水があったからでは」と推測する。

 宮森さんが薦める一本は磐梯町産の酒造好適米「美山錦」を使った「特別純米酒」。飲み方は「やはり、ぬるめの燗(かん)がいい」。丸みのある味わいで、穏やかに香る。「酒は主役の料理を引き立てる名脇役。際立った味でなく、調和が取れていないといけない」と代々受け継ぐ哲学を語る。肴(さかな)には焼き魚や漬物が合うという。

 酒蔵に入ると、想像していた最新設備ばかりではなかった。「できる限り人の手で」と機械化は最小限に抑えている。杜氏(とうじ)の塚田洋一さん(57)は「同じ数値で管理しても、季節やコメの状態で違う育ち方をする」と、先進的な設備よりも職人の経験と感覚を生かした伝統的な手作りを信じる。

 「心が澄むような酒で、人と人をつなぎたい」と宮森さん。徳一の仏都を潤した湧水のように、磐梯山麓に湧き続ける情熱は尽きることがない。

榮川酒造

 9年連続で最高金賞
 創業は1869(明治2)年。会津若松市の宮森文次郎酒造店から分家し、宮森榮四郎酒造店を創業。1947年、東北初の1級酒工場の指定を受ける。かつては当主が榮四郎を襲名。89年、磐梯町の磐梯山西山麓に工場を新設、2008年に生産工程を一元化した磐梯蔵が完成。「大吟醸榮四郎」は07年から9年連続で品質の国際評価機関「モンドセレクション」の最高金賞受賞。売店「ゆっ蔵」では試飲も楽しめる。榮川酒造(電話)0242・73・2300

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