【 檜物屋酒造店 】 手間暇かけ地元密着<二本松市>

 
袋吊りでの搾りの準備を進める蔵人=二本松市・檜物屋酒造店

 「二本松で一番愛される晩酌用の酒を造りたい」。檜物屋(ひものや)酒造店(二本松市)の社長斎藤郷太郎さん(73)と専務の長男一哉さん(44)=写真・下=が声をそろえた。同店自慢の銘柄「千功成(せんこうなり)」は、城下町・二本松の中心部にある風情ある仕込み蔵で生まれている。
 「肩肘を張らずに飲める酒だね」。蔵を案内しながら郷太郎さんが笑顔を見せる。「普段飲みに楽しんでほしい」。一哉さんも郷太郎さんと同じ思いで言葉を続けた。

 地元にこだわる姿勢は酒造りにそのまま表れる。酒米はほとんどが県産米。長い歴史を感じさせる仕込み蔵では、昔ながらの甑(こしき)で酒米を蒸すことから酒造りが始まる。ほとんどの工程が手作業。最大の特徴は「上槽(じょうそう)」で、もろみを搾り、酒と酒粕(さけかす)に分ける作業の全てを江戸時代と変わらない槽(ふね)搾りで行う。もろみを一つ一つ布袋に入れて槽と呼ばれる枠に並べ、上から圧力をかける手法。搾り機で圧搾するより手間は掛かるが、良質な酒が仕上がるという。

 一般的な酒は「燗(かん)がお薦め。たくあんなどの漬物なども合う」と一哉さん。香りのある純米吟醸などは「刺し身などと一緒に」、大吟醸は食前酒として味わえば、「地酒中の地酒」とも称される千功成の醍醐味(だいごみ)が楽しめるという。

 もろみを入れた布袋を吊(つ)るして染み出た酒で造る「袋吊り」は、より純粋な味が楽しめる。「手間暇を惜しまない」。地元密着という言葉の裏には、古里を裏切らないという強い覚悟が隠れているように感じた。



檜物屋酒造店

 豊臣秀吉の馬印ちなむ
 創業は1874(明治7)年。「檜物屋」という屋号の通り、元々は檜(ひのき)の薄板を円形に曲げて器を作っていたという。「千功成」の酒銘は、二本松藩主となった丹羽公の君主だった豊臣秀吉の馬印「千成瓢箪(せんなりびょうたん)」にちなむ。当初は酒銘も「千成」だったが、千の功(手柄、勲功、功績)が成るとの願いを込めて「千功成」にあらためた。そのため、お祝いの贈り物としても人気を集める。檜物屋酒造店(電話)0243・23・0164

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