【 太平桜酒造 】 風評払拭の懸け橋に<いわき市>

 
新酒の火入れ作業に取り組む従業員たち=いわき市・太平桜酒造

 城下町を思わせる黒塗りの塀が連なり、門の奥に太平桜酒造(いわき市)の酒蔵がたたずむ。酒造りの終盤時期に差し掛かった4月下旬、酒蔵では新酒を熱処理してタンクに貯蔵する火入れ作業が行われていた。温暖な気候の中、300年近く地元に根付き、愛され続けてきた"いわきの地酒"が生まれている。

 「『飲むとほっとするね』と喜ばれ、くつろげる酒を目指している」。9代目の代表社員大平正志さん(54)=写真・下=が優しい口調で酒造りへのこだわりを教えてくれた。地産地消を掲げ、県産米を100%使用し、手間を惜しまず、じっくりと仕込んだ酒は、ほぼ9割が地元で消費されている。

 「地元志向」の強い酒蔵だったが、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故以降、県産農作物の風評払拭(ふっしょく)を目指して、観光地や復興イベントで販売する「純米酒 絆」を造り始めた。ほのかな香りと純米酒らしい、しっかりとした味わいが特徴。「多くの人に県産商品の安全性を訴えたい」と大平さんは誓う。今年からは酒蔵のあるいわき市常磐地区で生産されたコメを使い酒造りに挑む。

 瓶詰めされた商品を見せてもらおうと近くの直営店「タイヘイ酒店」を訪れてみた。ほとんどの酒が直営店に行かなければ手に入りにくいという。「『絆』は常温か冷やで、いわきの食材と一緒にどうぞ」。大平さんは楽しみ方を紹介しながら酒造りにかける思いを教えてくれた。月日がたっても地元蔵人の酒造りへの情熱は絶えることはないことをあらためて感じた。



太平桜酒造

 先代の詠んだ句が由来
 湯長谷藩のお膝元で1725(享保10)年に創業した。当時、藩内に酒屋がなく、先代が湯長谷藩主・内藤政醇(まさあつ)に酒蔵の申請をしたとされる。当初の酒銘は「盛鯛(さかりたい)」。その後、先代が詠んだとされる句「太平の 桜を愛(め)でて 酒を酌み」にちなみ「太平桜」にあらためた。地元いわきで生まれ、今なお、古里に息づく銘酒は、市民らの信頼を集めている。太平桜酒造(電話)0246・43・2053

太平桜酒造