【 松崎酒造店 】 飲まれる瞬間に完成<天栄村>
若手杜氏(とうじ)の活躍する松崎酒造店(天栄村)は、飲み飽きない酒を目指し、地元の恵まれた水や全国で高い評価を受ける村産米などを生かした酒造りに取り組む。
「お客さまが飲む瞬間が完成品」。杜氏の松崎祐行(ひろゆき)さん(31)は、5代目社長淳一さん(58)=写真・下=の長男。火入れ後の酒をぬるま湯や水で冷やし、熱による味の変化を最小限にする「急冷」をはじめ、徹底した温度管理など細部へのこだわりを口にする。
祐行さんは、県清酒アカデミー職業能力開発校で酒造りの基本を勉強。2011(平成23)年に26歳で杜氏となり、試行錯誤の末、翌12年に初めて仕込んだ「廣戸川 大吟醸」が全国新酒鑑評会で金賞を受賞した。
酒米には村や近隣市町村で生産される県産の酒造好適米「夢の香」を使用する。「夢の香」は軟らかく砕けやすいコメで扱いにくいとされていたが、雑味のない味で、香りの良い酒になる。コメは小分けにして手で洗い、細心の注意を払って仕込む。水はミネラルが適度に含まれる中硬水の井戸水。栄養が豊富で軟らかく、発酵に影響するという。
「飯が食べたくなるお酒」との評判を聞いたという祐行さん。「廣戸川」の特別純米は、フレッシュでうまみやキレのある飲み口が特徴で、常温での味わいを推す。今後は「火入れ時に、うまみや酒の持つ香りをしっかりと閉じ込められるようにしたい」と言葉に力を込める。
淳一さんは「地元を意識して水やコメを使い、全国に発信していきたい」と思いを話す。地元に根差した酒造りから今後も目が離せない。
釈迦堂川のかつての名
1892(明治25)年創業の個人経営の酒造店。天栄村を流れる釈迦堂川が、かつて「廣戸川」と呼ばれていたことが銘柄の由来とされる。「廣戸川」は大吟醸など7種類ほどあり、特別純米を基本に季節ごとに楽しめるように仕込んでいる。このほか、地元産コシヒカリを原料米に製造した「石背(いわせ)」は、豊かな味わい。全国新酒鑑評会では、2012(平成24)年から4年連続で金賞受賞を果たしている。松崎酒造店(電話)0248・82・2022