【 曙酒造 】 若返り図り原点回帰<会津坂下町>

 
貯蔵タンクから酒を移す作業を行う孝市さんの父で営業部長の鈴木孝教さん

 「蔵に響く『さわさわ』という発酵音に生き物のような不思議な感覚を覚えた」。曙酒造(会津坂下町)の専務鈴木明美さん(56)は、ほの暗い酒蔵の中での少女時代の思い出を教えてくれた。「女人禁制」の風習が残る時代に酒蔵で育った鈴木さんは、後に銘酒「一生青春」を世に送り出す。

 鈴木さんは東京農大を卒業後、県清酒アカデミーで理論を学び、1994(平成6)年ごろから家業の酒造りに加わった。当時製造していた酒は低コストの「2級酒」が大半だったが、市場は縮小し転換の必要性に迫られていた。

 鈴木さんは他県の酒蔵視察を重ね、純米吟醸酒の開発を目指したが、「高い酒は売れない」と当時の職人からは反発された。「自分たちだけで造ろう」と、外部委託の杜氏(とうじ)制をやめて生み出したのが一生青春だ。

 一生青春は製造翌年となる99年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞、努力はすぐに実を結んだ。華やかな香りにほどよい甘味が口に広がり、特に冷酒で味わうのがお薦めという。受賞から間もなく人気に一気に火が付き、曙酒造「モデルチェンジ」の立役者となった。

 東日本大震災で同社は再び転換点を迎えた。蔵は半壊し、杜氏も明美さんの長男孝市さん(32)=写真・下(右)=が継いだ。

 受賞から遠ざかり、蔵として酒造りに迷いがある中での被災。孝市さんは職人の若返りと原点回帰を進め、再び蔵を全国金賞の常連に押し上げた。「日本酒を通じて地元の魅力も発信したい」と、日本酒のさらなる可能性を見いだす。



杜氏として職人の若返りと原点回帰を進めた孝市さん(右)ら

 女性社長『2代の歴史』
 1904(明治37)年創業。創業家の男性が早世したため女性が2代にわたり社長を務めた、酒蔵では珍しい歴史を持つ。90年代から吟醸酒の製造を本格化させ、99年から3年連続で全国新酒鑑評会金賞受賞。2年連続で県清酒鑑評会知事賞受賞。2004(平成16)年の全国金賞から受賞が遠のいたが、震災後の13、14、16年に再び全国金賞を獲得した。16年は16年ぶりに知事賞も受賞した。主力商品は「一生青春」のほか「天明」など。曙酒造(電話)0242・83・2065

曙酒造の代表銘柄「一生青春」と「天明」