【 鈴木酒造店 】 海の男に愛され育つ<浪江町>

 
仕込み作業で蒸したコメをタンクに移す社員=山形県長井市・鈴木酒造店長井蔵

 遠く朝日連峰を望む山形県長井市。豊かな伏流水が緑を育み、「水と緑と花のまち」を掲げるこの街で鈴木酒造店(浪江町)は震災後、再出発を切った。「変わったという人もいれば変わっていないという人もいる。それでも飲み続けてくれている人は多い」。長井蔵と名付けた新たな酒蔵で鈴木大介専務(43)=写真・下=は話す。

 元々は漁師町の浪江町請戸の酒蔵。主力銘柄の純米酒「磐城壽(ことぶき)」は海の男の酒として知られ、飲み方を選ばず「辛口でも甘口でもない『うま口』」(鈴木専務)の酒造りが自慢だった。震災と原発事故で被災し、後継者のいなかった同市の酒蔵に拠点を移した。市街地になじむ木造の外観とは異なり、仕込み蔵は近代化されている。温度は6度に保たれ肌寒い。しかし、仕込み以外の作業はほとんどが昔ながらの手作業。職人が1年を通じた酒造りに取り組んでいる。

 現在、酒造りを担う鈴木専務は東京農大卒業後、奈良県内での修業を経て浪江に戻り、酒造りの道に入った。こだわってきたのはコメだ。震災前、7割は浪江町内のコメを使用。環境は変わったが今では長井市や福島市など契約農家で栽培したコメが8割を超えた。

 朝日連峰から流れ出る水の良さを素直に引き出し、新しい酒の可能性も模索する。それでも「海の暮らしを背景にした酒ということは大事にしたい」と話す。雪室での熟成など新しさと伝統を融合した新しい酒造りも始まっている。



洗米の状況を確認する鈴木専務

 縁起を重んじた銘柄に
 江戸出しの廻船(かいせん)問屋を営む傍ら、相馬藩から濁酒製造が許されたことが始まりで、天保年間(1830~1843年)の製造記録が残る。酒蔵の堤防を挟んだ向こうは海で「最も海に近い酒蔵」とも言われた。常に危険と隣り合わせの漁師たちが縁起を重んじたことが代表銘柄「磐城壽」の由来にもなった。2011(平成23)年10月に長井市で受け継いだ酒蔵の伝統銘柄「一生幸福」も製造。鈴木酒造店長井蔵(電話)0238・88・2224

蔵を代表する「磐城壽」や「一生幸福」「親父の小言」