【 辰泉酒造 】 幻のコメ醸造に成功<会津若松市>

 
造った酒の酒質や醸造度合いを見る「呑切(のみき)り」を行う新城社長=会津若松市・辰泉酒造

 明治の創業当時から受け継がれる蔵の中は、夏の暑さがうそのようにひんやりと涼しい。夏は涼しく冬は暖かい、古くからの建築の知恵だ。会津若松市上町にたたずむ辰泉酒造は、4代目社長で杜氏(とうじ)の新城壮一さん(51)のもと、昔ながらの丁寧な酒造りを続ける。

 蔵を代表する銘柄は「京の華」。原料の酒造好適米「京の華」は、終戦後に一度生産が途絶えた幻のコメ。3代目の新次さん(故人)が復活させた。県醸造試験場で酒造りの研究、指導をしてきた新次さんは、退職し家業を継ぐと地元農家の協力を得て、同施設に保管されていた種もみから京の華の栽培を開始。4年間で着実に収量を増やし、醸造に成功した。

 収穫しにくく収量が少ないなど作るのは大変だが、京の華には魅力がある。良質のでんぷんを多く含み、じわっとうま味の余韻が残る。「手間は掛かるが、掛けた分だけおいしくなる」と壮一さん。飲む時は常温かぬるめで、コメの味そのものを楽しむのがおすすめだ。

 壮一さん自身も、東京の電気メーカーで働き、帰郷後、酒造りを一から学んだ。季節ごとに数量限定で発売する「辰ラベル」シリーズ開発のほか、原料を100%会津産米にするなど、より良い酒造りに向け研究開発には余念がない。

 酒造りも機械の方が作業は楽だが、辰泉では伝統的な手作業が主流だ。「人の手と目の届く範囲で、丁寧に手間を掛ける。小規模な蔵だからこそできる酒造りをしていく」



辰泉酒造

 三男が独立して創業
 会津若松市本町で酒造りをしていた新城本家から、三男龍三が独立して1877(明治10)年に創業した。兵庫・灘の辰馬本家酒造で修業し、「辰」の一字をもらって屋号を「辰泉」にしたと伝わる。戦時中は一時休業したが、襲名した2代目龍三が再開させた。会津の水とコメの良さを生かした、地元産の酒造りに取り組む。大吟醸「京の華」は、全国新酒鑑評会で6年連続金賞を受賞した実績を持つ。辰泉酒造(電話)0242・22・0504

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