【食物語・キュウリ】 食卓に欠かせぬ名選手 全国有数の産地

 
キュウリを収穫する吉田さん。「さまざまな料理に使え、欠かせない食材」と魅力を語る=須賀川市

 青々としてしゅっと伸びた夏野菜の代表格キュウリ。ハウス栽培で一年中出回るが、夏が旬。水分をたっぷりと含み、水分補給にも最適で、しゃきっとした歯ごたえを楽しむには味噌(みそ)を付けてかぶりつくのが一番だ。須賀川市と鏡石町、天栄村の露地の夏秋キュウリの出荷量は全国有数。「パワーグリーン」のブランド名で、関東をはじめ全国各地に出荷されている。

 「キュウリは奥が深い」。須賀川市の農家吉田誠次郎さん(60)は脱サラし6年ほど前、栽培を始めた。地元の同市雨田に約50アールの畑を借り、友人の助言を得ながら作り続ける。「キュウリは一夜漬けや天ぷら、つくだ煮などさまざまな料理に使え、欠かせない食材」。キュウリ好きがこうじて栽培を始めただけあって魅力を語り出したら止まらない。

 吉田さんは、5、6月に苗を植え、夏に収穫する。成長が早く一晩で5センチほど伸び、朝、夕の2度摘み取る。「収穫時期は暑さとの闘いになる。体調を整えてないと持たない」と体調管理に気を配る。収穫したキュウリは同市にあるJA夢みなみの選果場「きゅうりん館」で選果、箱詰めされる。現在は機械化されたが、「始めて1年目はあえて手作業で箱詰めしており、日付をまたぐこともあった。キュウリの亡霊に追われるような毎日だった」と振り返った。

 ◆かっぱ麺も登場

 地元での消費を押し上げようと開発されたのが、水を使わずキュウリの搾り汁で小麦粉を練り込んだ「須賀川かっぱ麺」。キュウリを丸ごと1本使った麺料理を作ろうと、須賀川商工会議所を中心に2006(平成18)年度に検討が始められ、翌07年から、同市桜岡の「高橋製麺」が製造した生麺などを使い、須賀川市の飲食店がオリジナルの味付けをしたかっぱ麺をメニューに掲げている。飲食店などでつくる「須賀川かっぱ麺の会」には現在19店舗が加盟。地元のキュウリや仁井田味噌などを使ったかっぱ麺を、同市産江持石などで作られた専用の陶器などに盛り付け、提供している。

 ◆とりこになる味

 味わってみなければ魅力を語れないと、高橋製麺に隣接する飲食店「つれづれ庵」に向かった。メニューに書かれた「須賀川かっぱ麺」は税込み850円。早速注文した。

 目の前に置かれた器にはキュウリのほか、トマトや肉味噌、エビなどがのっている。「見た目が爽やか」というのが第一印象。「まずはキュウリを」と添えられた肉味噌を付けて口に運ぶ。みずみずしさがたまらない。続いて麺と具材、肉味噌を絡めてすする。さっぱりとした味わいだ。

 社長の高橋優華さん(42)が「添えてあるものと麺に使っているものとを合わせると、1杯でキュウリ2本分に相当する」と驚きの情報を教えてくれた。

 かっぱ麺を作ったのは高橋さんの叔父で会長の良夫さん(66)。試行錯誤の末だったが、「キュウリをミキサーでジュースのようにしたら簡単にできた」と良夫さんは笑う。「冬も食べられる『温かかっぱ麺』もあるから食べてみて」とかっぱ麺への熱い思いを語った。食欲が落ちる夏場にも箸が進む。店によって味付けが異なるのも楽しい。キュウリ好きのカッパだけでなく、とりこになる味だ。

食物語・キュウリ

食物語・キュウリ

(写真・上)かっぱ麺を盛り付けるつれづれ庵店長の酒井博さん(写真・下)さっぱりとした味わいのかっぱ麺。この1杯で2本分のキュウリが使われている

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【鮮度キープに高い評価】 須賀川市松塚にあるJA夢みなみのキュウリ選果場「きゅうりん館」は、1996(平成8)年に稼働した。農家が持ち込んだキュウリが長さや太さなどを基準に機械で選果、箱詰めされる。鮮度を保つため予冷倉庫で一時保管されるほか、直接市場に送られる。須賀川のキュウリは「収穫時から鮮度がほぼ落ちない」と市場関係者から高い評価を得ており、県内だけでなく関東などの大消費地に届けられる。

 【ラーメン党にも対応】 須賀川市八幡町の井桁屋本舗は2014(平成26)年から食堂の蕎麦(そば)・うどん大黒亭で「岩瀬きゅうりのらーめん」を提供している。自社製造の「須賀川かっぱ麺」を使用、塩味のタンメン用スープで炒めた野菜などを盛り付け、価格は税込み800円。土産用にスープ付き乾麺(2人前)も販売しており、1セット税込み550円。