【食物語・福島の円盤餃子(上)】 県都にぎわす『夜の顔』 野菜たっぷり

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キャベツなど野菜中心のあんを手作りの皮で包み、多めの油で揚げ焼きされた円盤餃子=福島市・餃子の店 山女

 サラリーマンが帰宅前のひとときを過ごすため心躍らせる金曜日の午後5時前、福島市のJR福島駅から徒歩5分の場所にある餃子(ギョーザ)専門店「山女(やまめ)」を訪れると、店主の高橋豊さん(62)が手際よくあんを包んでいた。小さな麺棒で延ばした皮にあんをのせ、包んで閉じる。包む速度は1個につき2~3秒。「皮から手作りなので時間がかかり、お客さんに迷惑を掛けている」と高橋さんは笑う。

 福島市の名物、円盤餃子はフライパンに餃子を丸く並べて焼き、そのまま皿にひっくり返す。平均20グラムの小ぶりな餃子が1皿に20~30個ほど並ぶ。あんは野菜たっぷりで、あっさり味が主流。特徴は円盤状に並べられた見た目だけではない。「夜の餃子」とも言われる。市内に十数軒ある餃子専門店のほとんどがランチタイムに営業していない。ご飯を置かない店もある。福島の餃子は酒のつまみとして発展してきた。

 ふくしま餃子の会の会長を務める高橋さんは「戦後のサラリーマンの楽しみは、おでんや焼き鳥での一杯。そこに餃子という新しい食べ物が登場し、人気のつまみになった」と明かす。

 ◆満州で学んだ味

 円盤餃子を作り上げたのは戦後に旧満州から帰国した人だった。帰国者の一人で同市にある「元祖円盤餃子 満腹」の創業者、故菅野かつゑさんが作り方を教えて広まり、各店で独自の進化を遂げた。高橋さんの餃子はキャベツがメインで、クリーム状になるまで練ったあいびき肉を混ぜ合わせる。油を多めに引き、強火で一気に焼く。ぷっくりとしたキツネ色の円盤餃子は1皿20個で税込み1200円。パリッとした歯ごたえの後にクリーミーなあんのうま味が広がる。ビールも合うが、高橋さんのお薦めは日本酒。「熱々の餃子と一緒に、力強い山廃の純米酒を試してほしい」

 次に向かったのが前述の「元祖円盤餃子 満腹」。1953(昭和28)年創業だ。円盤餃子の歴史は、かつゑさんが満州で学んだ餃子を再現したところから始まる。福島市には満州からの引き揚げ者が多く、「懐かしい味だ」とたちまち評判になった。かつゑさんの口癖は「手のし3年、包み5年、団子一生、焼き一生」。店が終わると毎日フライパンの焦げ目をきれいに削り、強火で焼いて翌日に備えた。91歳まで店に立ち、2010年に103歳で亡くなった。孫で女将(おかみ)の椎野仁子さん(52)は「満州から命からがら逃げてきたが、餃子のおかげで生活ができた。餃子には頑固な人だった」と振り返る。

 店では創業からの味を守り続けている。あんにはハクサイと豚のひき肉、長ネギ、ニラを入れる。油少なめで12分かけてじっくり焼く。1皿30個で税込み1620円。表面はカリカリで肉厚の皮はモッチリとし、ハクサイの歯ごたえも楽しめる。一口サイズなので、うま味を逃さない。箸が止まらず一皿をぺろりと平らげてしまった。

 ◆タウン誌が命名

 仁子さんによると、円盤餃子の呼び名は15年ほど前、店を紹介するタウン誌で名付けられたことがきっかけだ。それを聞いたかつゑさんは「なんだそれ、変なの」と言いながらも、少しうれしそうだった。「ハクサイは水分が多いので作るのに手間も人手も掛かるが、祖母が作った餃子を続けたい」と仁子さん。福島の餃子は気骨あふれる先人が守り通した味だった。

食物語・福島の円盤餃子(上)

食物語・福島の円盤餃子(上)

(写真・上)麺棒で皮を延ばし、あんを手際よく包み込む(写真・下)山女の餃子は小ぶりで1皿に20個ほど並ぶ。パリッとした歯ごたえが楽しい

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【うまみぎゅっと蓄える】福島市にある「満腹」の女将(おかみ)、椎野仁子さんが家で餃子(ギョーザ)を上手に焼くこつを教えてくれた。椎野さんによると、火加減は「強火、中火、強火」の順。最初は強火で、水が沸騰したら中火にして蒸らす。餃子がふくらんだら再び強火にして、残った油で焦げ目を付ける。「できれば餃子専用のフライパンを」とも。肉を焼いたり、野菜を炒めたりしたフライパンには見えない焦げが付いている。皮がくっつきやすくなるため、専用がお薦めという。

 【胃もたれしにくい「完全食」】皮は炭水化物で、あんに野菜と肉を使っていることから、一部で餃子(ギョーザ)は「完全食」などと呼ばれることもある。調理学を専門とする桜の聖母短大の津田和加子教授は「餃子は現代人の不足しがちな野菜をたくさん取るのにぴったりな食べ物。キャベツやハクサイにはビタミンや食物繊維が豊富に含まれている」と説明する。特に円盤餃子は野菜がたっぷりと入り、小ぶりで、皮も薄いため、「胃もたれしにくいのもメリット」とした。