【食物語・福島牛(上)】 全国に誇る『ブランド』 イレブンの一員

 
きれいにさしが入った福島牛。「片面はしっかり、返しはサッと」というのが焼き方のこつ=郡山市・福島牛焼肉 牛豊朝日店

 うねめ牛やいしかわ牛、会津牛など県内に銘柄牛(ブランド牛)は複数あるものの、スーパーの肉売り場などでは福島牛の文字を目にすることの方が少なくない。その呼び名からサッカーを連想させる、県産農林水産物11品目の「ふくしまイレブン」の一つに位置付けられている福島牛。その正体を探ろうと取材に向かった。

 外国から家畜牛が持ち込まれたのは縄文~弥生時代とされ、食用となったのもそのころのようだ。肉食禁止令により牛は一時、農耕や運搬などに使われたが、戦国~江戸時代になると健康回復や滋養のための「薬喰(くすりぐ)い」として再び食べられるようになった。

 ◆品質の高さ示す

 時代は戻って現代。記者が抱いた「福島牛とは何だ」との疑問は歴史をひもとくよりも簡単に晴れることになる。答えを示してくれたのは郡山市の全農県本部畜産部次長の安達正則さん(56)。「呼び名が違うだけで同じ福島牛ですよ」。安達さんによると、福島牛とは県内のブランド牛の総称であり、県内で肥育・生産(最長飼養地が本県)された黒毛和牛を指す。日本食肉格付協会が定める格付けで2等級以上が福島牛、格上の4等級以上が銘柄福島牛と定められている。

 福島牛が全国に知られるようになったのは全国肉用牛枝肉共励会で日本一に輝いた1998(平成10)年。光沢や繊細なさし(霜降り)などが総合的に評価された。しかし、原発事故以降、全国平均と同水準だった福島牛の価格は下落、東京市場ではいまだ1キロ当たり150~200円ほど全国平均を下回る。それでも努力を続けた関係者の執念が実り、昨年の全農肉牛枝肉共励会で最高賞の名誉賞を受賞。品質の高さをあらためて示した。

 全農県本部では現在、年間約4500頭を出荷しており、このうち県内は約千頭。残りは県外だ。安達さんは「他県のブランド牛にも引けを取らない」と自信をのぞかせる。

 ◆鮮やかな霜降り

 集荷した福島牛は郡山市の県食肉流通センターで加工される。「さしはきめ細かく、どの部位を食べても甘みがある」と業務部長の陣野重美さん(58)。色鮮やかな良質の霜降りに目を奪われる。

 ここまで聞くと、「味わってみたい」となり、同市朝日にある全農県本部直営の焼き肉店「福島牛焼肉 牛豊朝日店」ののれんをくぐった。「これといった焼き方はないのですが」と店長の飯島泰伸さん(36)は前置きをした上で、「片面はしっかり、返しはサッとがこつ」とアドバイスしてくれた。モモや肩ロースなどを焼くと、香ばしい香りが漂い、空腹感を刺激する。焼いた肉を一口。甘みが鼻から抜け、畜産農家の努力が詰まった味に思わず「うまい」とうなずいてしまった。

 余韻に浸っていると、飯島さんが「こんな食べ方も」と薦めてくれたのがショウガじょうゆ。ショウガの存在感が際立つさっぱりとした味で病みつきになる。他にもリンゴやタマネギをベースにしたオリジナルのみそだれや、ワサビじょうゆなどの食べ方も教わったが、いずれも文句なしのおいしさだった。サッカーの世界では「サポーターは12人目の選手」とされている。ふくしまイレブンにちなみ「福島牛のサポーターの一人として応援していこう」。そんなほれ込むような味だった。

食物語・福島牛(上)

食物語・福島牛(上)

(写真・上)さまざまな部位が並ぶ県食肉流通センターの直売店(写真・下)県食肉流通センターで加工される福島牛

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 【おいしいキャンペーン】県と全農県本部、県食肉事業協同組合連合会でつくる「福島牛販売促進協議会」は年2回、福島牛の購入者らを対象に、抽選で焼き肉用の福島牛をプレゼントする販売促進キャンペーンを展開している。消費拡大を目的に県内の販売・料理指定店52店舗で実施。12月にもキャンペーンを行う予定で、福島牛のおいしさを全国に届け、風評被害の払拭(ふっしょく)につなげる。

 【スープは女性におすすめ】牛豊朝日店」店長の飯島泰伸さんによると、塩とコショウを振りかけるシンプルな味付けもお薦め。肉本来の味を楽しめる。全農県本部畜産部次長の安達正則さんは、テールやすねを使ったスープを味わってほしいと話す。高タンパクでコラーゲンが豊富なため、特に女性に食べてほしい一品だ。