【食物語・福島牛(下)】 「いしかわ牛」米食べ...うま味『ギュッ』

 
調理場であらかじめ片面だけ焼かれるステーキと焼き肉。ステーキは肉のうま味を楽しめるレアがお薦め=石川町・レストハウス母衣旗

 県内に数ある和牛産地の中で石川郡は肥育牛と繁殖牛を合わせた飼養頭数がトップクラス。その石川郡の銘柄牛(ブランド牛)が「いしかわ牛」。なじみは薄いかもしれないが、それもそのはず。2012(平成24)年に商標登録されたばかりで、ブランド牛としては新参だからだ。だが産地としては長い歴史を持つ。

 畜産業が盛んになったのは昭和初めごろ。いわき市と中通りとを結ぶ「御斎所街道」が通る石川郡ではかつて、馬を売買する馬市が開かれていた。需要の衰えとともに農耕用の牛から産まれた子牛が売られるようになり、昭和40年代ごろから子牛を育てて売る農家が現れ始め、県内有数の産地へと成長していった。

 いしかわ牛は以前、郡内産の和牛を指す通称だった。ブランド化したのはJA夢みなみに合併した旧JAあぶくま石川。地産地消が一番の目的だったが、全国に数あるブランド牛と勝負するために何らかの特徴を必要とした。そこで始めたのが、地元産のコメをふかして発酵させた飼料を与える取り組みだった。コメが含む成分により脂質やうま味が変化するとされ、「お米を食べた牛」をうたい文句に売り込んでいる。

 ◆くどくならない

 実際にコメで肉の味はどのように変わるのか。生産者に話を聞こうと、石川町の鈴木畜産を訪ねた。社長の鈴木崇義さん(67)は研究を重ね、牛を独自にブランド化したやり手。その鈴木さんも「脂質が良くなり、くどくならない。牛の食べっぷりが良い」と話す。その上で、自ら販路を確立してきた経験から、「消費者へのPRが何よりも大切」と今後を見据えた考えを語った。

 「肉の味を楽しむにはステーキが一番」と鈴木さんから聞き、いしかわ牛の料理を提供する同町母畑レークサイドセンターにある「レストハウス母衣旗(ほろはた)」に向かった。早速ステーキを注文すると、片面だけ焼いた、ほとんど生に近い肉が運ばれてきた。驚いていると調理師の岡部豊さん(59)が「肉自体がおいしいので手を加えず、そのまま味わってほしいんです」と説明してくれた。

 ステーキ皿が加熱され、自分で好きなように焼いて食べる。お薦めはレアと聞き、脂がしみ出る前の赤さが残る肉を口に運んだ。柔らかな食感と肉のうま味が広がる。表面がカリッとするほどに焼くと、今度はジューシーな味わいを楽しめた。「いしかわ牛は脂がさらっとして飽きがこない。お好みの焼き方でどうぞ」という岡部さんの言葉に納得した。

 ◆まずは地元から

 最後に訪れたのは、いしかわ牛の精肉を販売している同町のJA夢みなみ「あぶくま安心館駅前店」。店長の遠藤栄作さん(51)に、いしかわ牛を家庭で気軽に食べる方法を尋ねた。「それなら(比較的手ごろな)赤身のステーキが一番。これからの季節はすき焼きやしゃぶしゃぶもお薦めですよ」。ぜいたくをしたくなる誘い文句だ。

 ブランド牛として飛躍するには何が必要か。JA担当者は「『地元でしか食べられない牛』という盛り上がりが大切」とする。まずは地元で愛されることで、ブランドの価値が高まっていく。きょうは日曜日。「あすへの活力」とかこつけて、いしかわ牛を食してみてはどうか。

食物語・福島牛(下)

食物語・福島牛(下)

(写真・上)コメをふかして発酵させた飼料を牛に与える鈴木さん。品質向上へ手応えを語る(写真・下)加熱されたステーキ皿で運ばれてくるのは「手を加えず、そのまま味わってほしい」との思いがある

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【スタンプで当たるチャンス】石川地方農業振興協議会は11月30日まで、石川郡のいしかわ牛認定店20店と協力した「秋のスタンプカード祭り」を行っている。認定店でいしかわ牛の商品を購入するか、料理を食べてカードにスタンプを押してもらい、応募すると、抽選で26人にステーキ肉やビーフシチューなど、いしかわ牛の関連商品が当たる。

 【ステーキ膳は予約がお薦め】石川町の母畑レークサイドセンターの敷地内にある、レストハウス母衣旗(電話0247・26・3984)は、いしかわ牛認定店の一つ。いしかわ牛のメニューはステーキ膳(1800円)、焼き肉定食(1000円)、ハンバーグ定食(900円)でいずれも税込み。ステーキ膳は在庫切れの場合があるため予約がお薦め。営業時間は午前11時~午後2時。月曜日定休(祝日の場合は翌日)。

 【直売所の店内で精肉加工】石川町字当町にあるJA夢みなみの農産物直売所、あぶくま安心館駅前店(電話0247・26・6264)は、いしかわ牛を部位ごとに仕入れ、店内で加工・販売している。以前は予約販売が主だったが、昨年12月に、店内に精肉加工所がオープンしたことで常時販売が可能になった。営業時間は午前10時~午後6時。日曜日定休。