【食物語・白河ラーメン】 汁粉屋後継ぎが開拓 白河市内に100店舗超

 
流れるような動きで麺を上げ、手打ち中華そば(税込み680円)を作る和之さん。気温や湿度によって麺をゆでる時間を変える。勘が決め手だ=白河市・とら食堂

 「毎日食べても飽きないラーメン」。地元の人が県南地方を代表するグルメの一つ、白河ラーメンを言い表すときに使う言葉だ。鶏ガラと醤油(しょうゆ)をベースにした香ばしく透明感のあるスープは、手打ちのちぢれ麺によく絡み、白河市民をはじめ市外から訪れる観光客の舌を楽しませている。

 市内では現在、100店舗以上が白河ラーメンの看板を掲げて営業している。全国区となった、このご当地ラーメンに明確な定義はなく、鶏ガラ以外にも豚骨をスープに使うなど各店舗が工夫を凝らした独自の味を追い求めている。そんな進化を続ける白河ラーメンのルーツに迫った。

 ◆異業種から参入

 白河の名を聞けば今でこそラーメンを思い浮かべる人が多いようだが、白河と言えば、そばの時代があった。白河は「日本四大そば処(どころ)」の一つに数えられる。歴史を遡(さかのぼ)ること約200年。白河藩主の松平定信は冷害に強いソバの栽培を奨励した。これが四大そば処の起源であり、主食として麺を食べる文化が浸透していったきっかけとなった。

 白河で「中華そば」を最初に提供したとされるのが、店の主(あるじ)、故木伏源松の名前の一文字を店名に用いた中華そば店「亀源」。源松が継ぐ前、父源兵衛が営んでいた汁粉屋「亀屋」は夏場に客足が落ちるのが難点だった。年間を通して店を繁盛させる方法はないかと考えた源松は当時、関東ではやっていたという中華そばに着目。横浜市で修業を積み、1921(大正10)年ごろに亀源を開店。店は40年ほど続いたが、源松一代で終了した。現在は、店の味を受け継いだ食堂「茶釜本店」などが「元祖」の看板を掲げている。

 昭和に入ると、白河に映画ブームが訪れる。映画を見終わった後に中華そばを食べるのが流行となり、屋台などで中華そばを出すところが増えた。戦時中になると、運送業者など飲食とは関係ない業種も「中華そば業界」に参入。当時の運送業「菊忠運送」は乾麺を作り始め、源松と親類関係にあったことから「菊忠食堂(現ラーメン処菊忠)」をオープンさせた。ワンタン麺ができたのもこのころで、当時の「まるい食堂」が始まり。ワンタン麺はブームとなり、現在もワンタンをのせた白河ラーメンを出す店は多い。

 ◆技術広く伝える

 白河ラーメンを語る上で、白河の中華そばを全国区に押し上げた「とら食堂」を避けては通れない。故竹井寅次が73年に創業。寅次に関する詳しい資料は残っていないが、まるい食堂などで修業を積み、そば打ちの技術を応用してラーメンの麺を打ったとされる。

 寅次が一風変わっていたのは麺打ちの技術を惜しみなく伝えたところ。評判を聞き付けて教えを請う人に出向いてまで指導した。寅次の遺伝子は2代目和之さん(61)に受け継がれ、和之さんは42年のラーメン人生の中で20人以上の弟子を輩出した。「おいしいラーメンを世に広めたい。そのために学びたい人を受け入れてきた」と独自のスタイルを貫く。

 熟練の感覚でゆで上げられた麺が、たっぷりのスープに浸され、目の前に運ばれてきた。魂のこもった「手打ち中華そば」は数分をまたずに胃袋に納まった。繊細なスープと手打ちのちぢれ麺、そして親しみやすさ。毎日食べても飽きがこない白河ラーメンの魅力に出合えた瞬間だった。

食物語・白河ラーメン

食物語・白河ラーメン

(写真・上)地域住民に愛されているラーメン処菊忠の「白河中華そば」。1杯600円(税込み)(写真・下)とら食堂では午前4時ごろから麺打ちの作業が始まる

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【お得な「パスポート」発行】白河ラーメンを観光資源として売り出そうと、白河市でさまざまな取り組みが進む。同市と西郷村の店舗でつくる「白河ラーメン部会」はイベントなどで出来たてのラーメンを提供している。伝統の白河だるま市では、加盟店舗が合作のラーメンを販売。準備に余念がなく、開始約6時間前に会場入りする徹底ぶりだった。白河市は観光客向けにクーポン券付き「ラーメンパスポート」を発行。県外の公共施設や駅などに置いてPRしている。

 【12月・福岡に2号店が誕生】白河市の「とら食堂」(電話0248・22・3426)は午前4時ごろから、麺打ちなど仕込みに入る。チャーシューは特注の薫製機で調理。豚肉を焼き蒸しして出た汁に醤油(しょうゆ)ベースのたれを足して味に深みを出している。麺は気温や湿度など、状況によって打ち方やゆで時間を変えている。「まだ完成じゃない。オンリーワンを作りたい」と2代目の竹井和之さん。12月中旬にもラーメンの激戦地、福岡市に2号店を開店する。「白河ラーメンと、とら食堂を広めたい」と意気込む。営業時間は午前11時~午後2時30分と午後4時~6時。月曜日が定休。