【食物語・かまぼこ】 平安からの「祝賀料理」 縁起物!断面は日の出

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高木さんの包丁さばきが際立つ飾り切り。手前が松葉で、後方左が波切り、右が結び=いわき市平山崎・こう梅

 断面が日の出に見えることから縁起が良いとされ、おせち料理に欠かせない紅白かまぼこ。「赤は邪気を祓(はら)い、白は清める。かまぼこの色には意味がある」。そう教えてくれたのは、いわき市泉町にある老舗のかまぼこ製造会社「夕月」の企画室長で、体験型施設いわきかまぼこ工房の館長を務める四家満紀子さん(57)。

 「かまぼこのルーツは、ちくわです」。かまぼこが初めて文献に登場したのが平安時代。宮中料理などが記された「類聚雑要抄(るいじゅうざつようしょう)」に、祝賀料理の一品として、ちくわのような絵と「蒲鉾(かまぼこ)」の文字が載る。魚のすり身を木の枝に巻きつけたものが原型とされ、それが「蒲(がま)」という植物の穂や鉾(ほこ)に似ていることから「蒲鉾」と呼ばれるようになった。室町時代になると、板かまぼこが登場し、現在の呼び名になった。

 12ミリが『黄金比』

 かまぼこなどの練り物は各地で作られているが、かつては地元で水揚げされた魚を使用していたため、地域性が出た。「いわきではアカジ(キンキ)100%で作られていた時代もあった」。キンキが高級魚となった現在では考えられないが、常磐沖の漁場の豊かさを感じる逸話の一つだ。

 いわきは包装かまぼこの生産量で日本一を誇ったものの、震災後に多くのかまぼこメーカーが店をたたんだ。「もう日本一は難しいかもしれないね」。四家さんは寂しそうな表情を見せながらも「かまぼこ作りはいわきの地場産業。頑張らないと」と力を込めた。

 話を聞いた後、工場を見学した。主な原料はスケトウダラ。加熱前のかまぼこの見た目はプリンのように軟らかく、ベルトコンベヤーの上でプルプルと震えている。正月用を生産する12月は繁忙期。普段は手作りのかまぼこを担当している職人も工場に集め、1日で10万本以上を生産している。味見用にもらったかまぼこを口に運んだ。生産工程を知ると、魚の風味が一層感じられ、弾力と喉ごしも楽しい。記者が食べる様子を見て、「かまぼこのおいしい厚さは12ミリと言われているのよ」と四家さん。「正月はぜいたくに厚切りにしてほしいわね」と笑顔で付け加えた。

 板上の刺し身

 夕月の紅白かまぼこを手に、同市平山崎の和食料理店「こう梅」(電話090・5213・7864、完全予約制)を訪ねた。店主の高木公平さん(64)は約30年間、東京都内の店などで修業を積み、震災後に自宅に戻り店を開いた。店内にメニュー表はない。「料理人はメニューじゃなく、素材で仕事をするんだ」。そのべらんめえ調から、料理一筋の歩みがうかがえる。

 市内で開かれる料理教室などで講師を務める高木さんから家庭でできるかまぼこの「飾り切り」を教えてもらった。「かまぼこは板の上にのった刺し身。高級品で、昔は盆と正月くらいしか食べられなかった」。そう言うと、高木さんは手にした蛸(たこ)引き包丁を動かし始めた。刃先を小刻みに揺らしながら板に向かって切り進める「波」や、半月型のかまぼこに入れた切り込みをねじるように交差させる「松葉」など。形が変わると、よりおいしそうに見えるから不思議だ。

 かまぼこ料理のアイデアも聞くと、「かまぼこを魚のすり身と考えれば簡単だ。煮ても焼いても揚げてもいいんだ。天ぷらもうまいよ」。目から鱗(うろこ)が落ちる思いがした。おせち料理で、ぜひ、かまぼこに一手間を。

食物語・かまぼこ

食物語・かまぼこ

(写真・上)飾り切りを披露する高木さん。かまぼこ料理のアイデアを聞くと「煮ても焼いても揚げてもうまい」との答えが返ってきた=いわき市平山崎・こう梅(写真・下)正月に向けて工場で次々に作られる紅白かまぼこ=いわき市泉町・夕月

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【おしゃれなおつまみに】いわき市泉町にある「夕月」企画室長の四家満紀子さんお薦めの、かまぼこのおつまみを紹介する。作り方は一口大に切ったかまぼこの上にクリームチーズ、わさび漬けをのせてオリーブオイルとハーブソルトを適量かけるだけ。好みでイタリアンパセリを添えれば、おしゃれな一品が完成する。わさび醤油(じょうゆ)を付ける刺し身のような食べ方も簡単でおいしいが、わさび漬けを使うところがみそとなる。醤油に負けず、かまぼこの風味を感じられる。「白ワインや辛口の日本酒にもぴったりです」と四家さん。

 【リテーナ成形で生産拡大】かまぼこは製法によって蒸しかまぼこ、包装かまぼこ、笹(ささ)かまぼこなどに分けられる。いわき市でよく聞かれる「かまぼこ生産量日本一」は包装かまぼこの「リテーナ成形かまぼこ」を指す。リテーナ成形は、板かまぼこをフィルムでくるみ、金属性の型枠にはめ込んで加熱する製法。かまぼこの形を保ちながら衛生的に生産することができ、保存性も高い。この製法により安価なかまぼこの大量生産と出荷が可能になり、いわき市は全国有数のかまぼこの産地となった。