【食物語・郡山のコイ】 意外な顔に思わず『恋』 全国一の生産量誇る

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彩りも美しい「コイのセヴィーチェ」。コイの身にニンジンやオレンジが添えられている=郡山市朝日・ブランコ フクケッチァーノ

 コイの生産量が市町村別で全国一を誇る郡山市。明治時代からコイの養殖が盛んで「あらい」「甘露煮」など代表的なコイ料理は盆や正月など特別な日のご馳走(ちそう)として定着した。

 コイの養殖の歴史をたどると江戸時代に遡(さかのぼ)る。幕末のころ、郡山は奥州街道有数の宿場町として栄えたが、雨量が少なく、水源も乏しかったことから、水不足に悩まされた。そこで少ない雨を有効に活用しようと、市内各地にため池が造られた。

 明治時代に入ると、安積開拓・安積疏水開削事業が実施され、猪苗代湖から水を引くことに成功。長年の水不足がようやく解消された。安積疏水が完成して郡山が発展を遂げる中、使われなくなったため池を利用してコイの養殖が本格的に行われるようになった。

 ◆蚕のサナギ餌に

 猪苗代湖を水源とするミネラル分が豊富な雪解け水で育った郡山産は臭みが少ないのが特徴。自治体に係を設置しているのは全国唯一という郡山市鯉係の箭内勝則係長(49)は「郡山産は脂ののりがいい」とPRする。

 コイの養殖が始まった当時、郡山では養蚕業が盛んだったため、蚕のサナギを混ぜた餌を与えていた。「郡山のコイはおいしい」と知られるようになった理由の一つだが、この手法は費用がかかることなどから、養蚕業の衰退とともに取り組む業者が少なくなっていった。

 ただ昔のやり方を守り続ける業者もいる。同市大槻町の広瀬養鯉場は現在もサナギを混ぜた餌を与えている。広瀬一臣社長(43)は「サナギを混ぜることでコイの身が軟らかくなり、脂がのってくる」と説明する。コイがおいしい季節は冬。脂がのり、身が締まる。出荷が多いのも冬だが、全国的にコイの消費が落ち込んでいるのが現状。広瀬社長は「食べておいしい魚。その魅力を知ってほしい」と話した。

 ◆スーパースター

 周りの人にコイについて聞くと、甘露煮のイメージが強く、好みも分かれるようだ。臭いを気にする人もいる。従来のイメージを払拭(ふっしょく)できる料理はないか。うわさを聞き、郡山市朝日のフランス料理店「ブランコ フクケッチァーノ」(電話024・983・3129)を訪れた。中田智之シェフ(33)は「郡山市に飲食店を構える人にとってコイは『スーパースター』。食材としての可能性は大きい」と強調する。

 中田シェフが、東京都で開かれた本県のブランド食材セミナーでも好評だったという「コイのセヴィーチェ」を調理してくれた。セヴィーチェは、魚の刺し身にレモン汁などで味付けし、野菜をのせるペルー料理。塩をふり余分な水分を飛ばした身をレモン汁とマカダミアナッツオイルであえる。その上に塩とオリーブオイルなどであえた郡山ブランド野菜の御前人参(にんじん)、タマネギなどをのせ、アーモンドとオレンジを散らして彩りを加える。味わうには事前の予約、相談が必要だ。

 思い抱いていたコイ料理と全く異なる一皿に目を見張る。新鮮なコイのコリコリとした食感が楽しい。ニンジンやタマネギとの相性も抜群。コイを使っていると言われなければ何の魚か分からない人もいるのではないか。それほど見た目も味も衝撃的だった。コイ料理の魅力に出合えた。

(写真・上)冬場に本格化するコイの出荷作業=郡山市安積町(写真・下)調理する「ブランコ フクケッチァーノ」の中田シェフ

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【天ぷら楽しむ安積開拓丼】コイをもっと味わってもらおうと、天ぷらにした郡山市産のコイと同市産米「あさか舞」を使った天丼「安積開拓丼」が昨年9月に誕生した。同市で昨年10月に開かれた「こおりやま産業博」に合わせ、同市大槻町の日本料理店「正月荘」の鈴木正二店主(68)が考案した。天ぷらにするとコイの臭みがなくなり、柔らかくふっくらとした食感が楽しめる。天丼には同市産のカボチャや大葉の天ぷらものっている。税込み800円。問い合わせは正月荘(電話024・983・3199)へ。

 【ニーズに応える新商品開発】生産量が落ち込む郡山市のコイを復活させようと、市と県南鯉養殖漁業協同組合は、2015(平成27)年11月から、郡山産のコイの販路拡大や商品開発を進める「鯉に恋する郡山プロジェクト」に取り組んでいる。プロジェクトは、キリンビールマーケティングから1000万円の助成を受けて実施。市場や消費者のニーズに応えられるような新商品の開発や同市の飲食店でのコイ料理の提供に向けて、飲食店関係者を対象にしたコイのさばき方講習会などを開いている。