【食物語・国見の青ばた豆入り赤飯】 祝い事に...真心詰まった「郷土食」

 
重箱に赤飯を移す羽根さん。ゆでた青ばた豆にナンテンの葉を添えて青ばた豆入り赤飯が完成する=国見町

 新年ということで、めでたい時に食べる料理を探した。国見町の青ばた豆入り赤飯は、新年はもとより神社の祭礼や子どもの誕生など、祝い事で振る舞われる郷土食だ。

 「前日から仕込んでおくから」。突然の取材の依頼も快く引き受けてくれた国見町山崎の主婦羽根キツさん(81)を訪ねた。

 羽根さんは小豆を入れて蒸かしたもち米1升を重箱に移し、ゆでた青大豆の一種の青ばた豆をその上に盛り付けた。これに自宅庭のナンテンの葉っぱを添えるのが「羽根家流」。「誰かから祝い事ではそうするよう言われた。何でだか理由は分からないけど」と笑顔を見せた。

 ◆生まれた工夫

 早速いただく。赤飯の粘り気のある食感と青ばた豆のシャキシャキとした歯応えが絶妙。かむほどに、口の中に豆の香りが広がった。鮮やかな見た目も食が進む要素の一つ。ガツガツと頬張った。

 青畑豆、青肌豆、青端豆―。「ばた」にはさまざまな漢字が当てられるが、どれも正しいようだ。要は青ばた豆を指している。枝豆よりも熟していて、タンパク質をより多く含む。町内では自家栽培している家庭もある。会話では「青ばた余ってる?」などと豆を略すことも多い。

 なぜ赤飯に青ばた豆を入れるのか。「労働環境から生まれた工夫」。国見の食文化を調査している民俗研究家の結城登美雄さん(71)=仙台市在住=が、解決のヒントを教えてくれた。

 かつて伊達では養蚕業が盛んだった。男性はコメ作り、女性は蚕の世話を担当するのが一般的。養蚕の作業は早朝から夜遅くまで続いた。「御蚕様がいると旅行に出る暇もない」ほどの重労働だったという。女性が忙しいとなると、家族のご飯はどうするのか。ごちそうを作る余裕はない。料理の時間が限られていたため、調理が簡単で保存がきく豆が重宝された。

 「少しでも栄養のある物を食べてほしいという、気遣いの心が反映されている。国見では具材をたくさん入れた混ぜご飯が多くある」と結城さん。 

 ◆給食通し継承

 町では蚕の世話が一段落すると、近所に赤飯を配る風習もあった。蚕が「マメ」に働きますように、互いに達者で暮らせますように―。青ばた豆入り赤飯は縁起を担ぎ、他人を思いやる料理と言えそうだ。

 郷土食を地方創生につなげようと、町は家庭料理の掘り起こしを進めている。本年度、町民からレシピを募り「国見町食卓図鑑」を発行した。町給食センターは図鑑からメニューを採用。町内の幼稚園や小、中学校の給食で月に数回、郷土食を出している。18日の国見小の給食には、青ばた豆ではないものの、枝豆を使った「豆入り赤飯」が登場、子どもたちを喜ばせた。

 県教委が打ち出している食育指針の一つに「郷土愛を育む」がある。町給食センターで昨年4月から働く県栄養教諭の上原子昌代さん(47)は「核家族化が進み、いわゆる郷土料理を家で食べる子と食べられない子がいる。じゃあ『給食でやってみよう』となった」と郷土食提供の経緯を話す。

 上原子さんは「代々受け継がれてきた家庭の味。給食で完全に再現するのは難しいものですね」と苦笑いしながらも「工夫を重ね、味を極めたい」と力を込めた。郷土食の紡ぎ方は多様化しても、人の食への思いは変わらない。

食物語・国見の青ばた豆入り赤飯

食物語・国見の青ばた豆入り赤飯

(写真・上)新年や神社の祭礼など、祝い事で振る舞われる青ばた豆入り赤飯(写真・下)給食で出された豆入り赤飯を手に笑顔を見せる国見小の児童

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【「食卓図鑑」で163品紹介】国見町が作った「国見町食卓図鑑」。ご飯もの、お餅、煮物、炒めもの、揚げ物・焼き物、酢の物、漬け物、和(あ)え物・お浸し、おかずみそ・汁物、洋食・サラダ、デザートの項目に分け、計163品のレシピと料理の写真を載せている。食の伝承事業についても記載、町内の学校などに配布した。希望者に無料で提供しているが、国見町から遠い場合には郵送料がかかる。現在第2弾を作成中。問い合わせは国見町企画情報課(電話024・585・2217)へ。

 【ささぎ豆、甘栗で彩りアップ】青ばた豆入り赤飯の基本的な作り方を紹介する。まず水に浸したもち米を蒸かす。これに40分ほど煮て少し軟らかくなった小豆を混ぜ合わせ、ごま塩を振りかけ、青ばた豆を盛り付ければ完成。下ごしらえが必要で、青ばた豆は一晩水に浸しておき、翌日にゆでる。ささぎ豆や甘栗を加えると、彩りが豊かになる。近所にお裾分けする時には、縁起を担いで青ばた豆の数を「7」などにする家庭もある。