【食物語・いかにんじん】 ルーツ謎めく名脇役 素朴な味わいと食感

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スルメとニンジンが材料のいかにんじん。ニンジンを食べやすい長さと幅に切りそろえていく佐藤さん

 県北で食べられている郷土料理。材料にスルメとニンジンを使うから―との理由でいかにんじんと名付けられたというこの料理は、二つの食材が織りなす食感と、素朴な味わいで県民の胃袋をつかんできた。なじみ深い料理の割に起源にはっきりとしない部分がある。詳しく知ろうと、福島市産の農産物をPRする市農業振興室6次化係の後藤真吾副主査(27)を訪ねた。

 ◆松前漬との縁

 いかにんじんは100年以上も前から伝わり、同じように見えても味付けは家庭によって異なるという。福島市出身の俳優佐藤B作さんがテレビ番組で紹介したことで知名度がアップ。カルビー(東京都)が昨年、「ポテトチップスいかにんじん味」を発売したことで全国区となった。

 いかにんじんを語る上で必ずといっていいほど登場するのが北海道の郷土料理、松前漬。スルメとニンジンに加え、昆布、カズノコなどを材料に、しょうゆとみりんで漬け込んだ料理と、いかにんじんにどんな関係性があるのか。

 「いかにんじんのルーツは松前漬との説があれば、その逆もある」。郷土料理を研究する桜の聖母短大生物科学科の津田和加子教授(58)が説明してくれた。しかし研究を重ねても結論に至っていないのが現状という。それでも「二つの料理がつながっている可能性があることが分かった」と津田教授は説明を続けた。

 時代は幕末。幕府が梁川藩(現伊達市梁川町)と松前藩(現北海道松前町)の領地を移し替える国替えを行った。その時、いかにんじんが北海道に渡ったのか、松前漬が本県にもたらされたのかは定かではないが、津田教授は「(国替えにより)食文化の交流が確かにあったはず」と強調する。

 ◆存在感は抜群

 取材をするうちに、無性にいかにんじんを食べたくなった。福島市在住の「ふくしまの食のたくみ」の一人で、いかにんじんを作り続け約60年のベテラン佐藤善井さん(79)に"本物のいかにんじん"を作ってほしいとお願いした。「期待に沿えるか分からないけれどお待ちしてます」。快く引き受けてくれた佐藤さん方を早速訪問した。

 「トン、トン、トン」。佐藤さんが立つ台所に包丁とまな板の小気味よいリズムが響く。熟練の包丁さばきで細切りにしたニンジンと、はさみで細く切ったスルメに漬けだれをかける。2~3日じっくりと漬け込めば、いかにんじんが完成する。ありがたいことに3日ほど漬け込んだいかにんじんを出してくれた。そこに香り付けとしてユズが加わっている。

 いざ、実食―。「シャキッシャキッ」。ニンジンの食感とスルメの歯ごたえ、ほんのり甘い漬けだれに箸が進む。ずうずうしくもおかわりした。佐藤さんはお茶請けやおかず、つまみなど、さまざまな場面に欠かせないいかにんじんを「名脇役」と表現する。「かき揚げや炊き込みご飯にしてもおいしいよ」。さすがは名脇役。存在感は抜群だ。アレンジも利くいかにんじん。おすすめの食べ方を聞くと、佐藤さんは笑いながら「そのままが一番だよ」と答えた。スルメとニンジン、少しの調味料だけで100年以上も食卓を彩り続けるいかにんじん。これこそが家庭料理の神髄なのかもしれない。

食物語・いかにんじん

食物語・いかにんじん

(写真・上)ニンジンは食べやすさを考え、長さ4センチほどに切りそろえる(写真・下しょうゆだれに3日間漬け込んだいかにんじん。味がしみ、スルメが軟らかい

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【ポテトチップス版が大ヒット】カルビー(東京都)は郷土料理、いかにんじんの味を再現した「ポテトチップスいかにんじん味」を東北など地域限定で販売した。福島市飯野町出身の伊藤秀二社長・COO(最高執行責任者)が考案。スルメイカとカツオ、昆布出汁(だし)のうま味を凝縮した。限定商品ながらこれまで3回発売されており、約80万袋を売り上げる大ヒットとなっている。夏にも4回目の発売が予定されている。

 【漬けだれに2~3日寝かす】いかにんじんの一般的な作り方を紹介する。材料はニンジン300グラム、スルメ1枚、塩と砂糖、酒が少々。漬けだれはしょうゆ100CC、砂糖大さじ2分の1、みりんと酒がそれぞれ小さじ2分の1だが、好みで調節する。作り方は〈1〉スルメを横に3~4等分(3~4センチ幅)し、縦に適当な太さに切る。水洗いして水気を取り、酒を振りかけて30分から1時間ほどおく〈2〉ニンジンもスルメと同じ長さに細切りにし、塩と砂糖を振って軽くもみ、30分から1時間ほどおいた後、水で塩気を洗い流す〈3〉鍋に漬けだれの材料を入れ、沸騰直前に火を止めて冷まし、〈1〉と〈2〉を入れて落としぶたをする〈4〉2~3日寝かせれば完成する。