【食物語・小野のまんがこ】 『先人の知恵』...鍋に凝縮 農機具が由来

 
郷土料理のまんがこに欠かせない地元産の根菜類とコンニャクなどを大鍋で炒める石井さん

 「まんがこ」という聞き慣れない食べ物の正体を探るため小野町へ車を走らせた。向かったのは町の郷土料理継承に取り組む「なの花会」の石井友子さん(57)。「まんがこは作り方がほぼうどんと一緒。練った小麦粉を太く、幅広く切った食べ物で、昔はコメの代用食として食べていた」という。

 気になる名前の由来は、田植えの時に馬が引く農機具の馬鍬(まぐわ)にあるようだ。長方形の生地が馬鍬の歯に似ていたことから「まぐわ」「まぐわっこ」などと変化し、まんがこと呼ばれるようになった。

 家族が多かった昔、まんがこは農家で重宝された。囲炉裏(いろり)につるした鍋でジャガイモやニンジン、大根、白菜などの野菜をたっぷりと煮込み、まんがこを入れれば完成する。このやり方だと、まんがこをゆでる手間を省くことができ、農繁期の主婦にとって心強い味方だった。

 ◆コメ代わりに

 小野町にまんがこが根付いた背景には、コメが十分に取れなかったという阿武隈山地の「宿命」がある。同町在住で郡山女子大食物栄養学科准教授の先崎和子さん(67)は「昔は冷害に見舞われることが多かった。阿武隈山系で暮らす人たちはコメを大切に備蓄し、お金に換えたりしていた」と説明する。現金に換えられる貴重なコメの代わりに、まんがこを食べた。昔は葉タバコの栽培が盛んで、畑と畑の間に、風よけなどとして小麦を栽培した。女性たちは小麦からまんがこやうどん、小麦まんじゅうなど小麦料理を作り、町に小麦文化が浸透していった。

 管理栄養士でもある先崎さんは栄養面に着目する。鍋にして食べればタンパク質や炭水化物、カリウムなどをバランス良く摂取できるため、「先人の知恵が詰まった料理」と評する。

 小麦粉を使った郷土料理は、小野町だけでなく全国各地でもみられ、「糊食(こしょく)文化」と言われる。山梨県のほうとうや岩手県のひっつみなどが代表格。食生活の変化などで一部で廃れつつあり、先崎さんは「食育で地域の食文化を次世代につないでいく必要がある。料理の背景にある歴史などを学ぶきっかけにもなる」と強調する。 

 ◆芯から温まる

 生地作りの手間もあって、今では町内でもあまり食べられなくなったまんがこ。提供する飲食店や販売しているスーパーもない。とは言え、ここまで来たからには何とか食べてみたいと、石井さんに調理をお願いしたところ、快く引き受けてくれた。

 石井さんは生地作りから始めた。手際よく練った生地を幅広く切り分ける。昔は生のまま鍋に入れたが、「石井流」は一度ゆでてからザルに移して水で表面のぬめりを取る。「こうすることでコシが出て、汁もどろどろにならない」と石井さん。畑で採れた野菜がたっぷり入った鍋はみそで味付けする。「野菜のうま味が凝縮した冬のまんがこは格別」と話すように石井さんの自信作だ。

 10人前はあるかと思える大鍋を町役場や町商工会の職員と囲んだ。野菜のうま味が染みたまんがこは、もちもちとした歯ごたえが心地よい。みそ味の汁との相性も抜群で満腹感も申し分ない。体の芯から温まり、寒さが厳しい阿武隈山地に最適の料理と思えた。

食物語・小野のまんがこ

食物語・小野のまんがこ

食物語・小野のまんがこ

(写真・上)麺棒で生地を延ばす石井さん(写真・中小麦が原料のまんがこ。ゆでた後、水にさらしてぬめりを取る。煮込んでも溶けずになめらかな舌触りになる(写真・下まんがこと地元産の根菜類、コンニャクなどを煮込み、具だくさんに仕上げた一杯

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【首都圏在住者に体験ツアー】小野町ふるさと暮らし支援センターは首都圏在住者を対象にした田舎暮らし体験ツアーで、まんがこ作り体験を行っている。ツアーは年5回程度実施され、体験会では「なの花会」の石井友子さんが、まんがこ作りを指導している。まんがこのほか、干し芋作りや、藤づるを使った籠作りなども体験可能。ツアーは郷土食や田舎暮らしの魅力を伝え、移住につなげることが目的で好評を得ているという。

 【生地を寝かせて粘り出す】(1)ボウルに入れた小麦粉の中央をくぼませ、塩を溶いた水を少しずつ加える。もむように練り込んだ後、ビニール袋に入れ、4~5時間寝かせて粘りを出す(2)生地を再びこね、厚手のビニール袋に入れて足で踏み弾力をつける(3)打ち粉をかけながら麺棒で薄く延ばして平らにする(4)麺棒に巻き付け、両手に力を入れて前後に転がしながら延ばし、時々広げて打ち粉をかける(5)麺棒に巻き直すのを繰り返しながら5ミリ程度の厚さにし、重ねてたたみ幅広く切る(6)沸騰したお湯でさっとゆでる(7)野菜などを煮込んだ汁に入れ、みそで味を調える。