【維新再考・識者に聞く】御厨 貴さん(中) 英国に学んだ政党政治

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 西欧列強に並ぶ近代国家の建設へ、猛烈な勢いで走り始めた明治初期の日本。政治学者、御厨貴さんの「再考」2回目は、10年後の憲法制定と国会開設のため、ヨーロッパへ渡った陸奥宗光ら明治人たちが何を学んだのかを語る。

 10年後の国会開設の方針を国会開設の勅諭(ちょくゆ)(1881年)で示して以降、明治政府は猛烈に統治の近代化へ走り始めた。発展途上国では、政府が強権を振るうから、議会を開くと約束しても大抵うまくいかないが、どういうわけかこの政権は「10年後に国民に約束した議会を開かなければどうにもならない」という意識があった。そこには(幕末結ばれた日本の関税自主権が認められず、相手国の治外法権を認めさせられているなど不平等な)条約の改正というものが頭にあったからだった。

 条約改正を早くやらないと日本は、主権国家として欧米から認められない。では条約改正を成し遂げるには、どうするかというと、日本は近代国家の様相を呈さなければならない。近代国家の様相とは、第一に憲法をはじめとする六法の体系をきちんとつくり上げる。2番目は憲法の名の下に国会が開かれ、そこで国民への政治の開放が行われる。この二つのメルクマールを目指し、明治10年代から20年代の日本は、すごい勢いで近代化に走り始めたのだった。

 そして、薩長の「藩閥の雄」といわれる人たちが偉かったのは、伊藤博文らが率先してヨーロッパへ勉強に行ったことだった。ただ、特に欧米の統治の理論に精通していたのは、実は陸奥宗光だったといわれている。

 陸奥宗光も数奇な運命をたどった人だ。和歌山、紀州藩の出身。明治維新が始まる前、彼は脱藩して維新の運動に参加し、明治政府ができると和歌山から出てきて政府内に所を得た。

 しかし、当時政府は薩長優先で、東北の出身者はもちろん、陸奥のような東北以外の出身者でも差別を感じたようだ。それで政府を辞め、ここが面白いのだが、西南戦争の時、土佐の林有造ら一派が政府に対し武力を持って立ち上がった際、その企てに参加し、逮捕され長く監獄に入れられてしまった。

 獄中での彼が偉かったのは、イギリスの政治思想の本、特にベンサムの功利論などを読んで勉強した。そして、自分自身を恥じる。政府を倒そうというのは短慮で、西洋の政治思想に学び、それを日本に導入しなければならない。そして、そういうふうに陸奥を導いたのが、実は伊藤博文だった。

 陸奥は獄から出てきた後、伊藤の勧めでオーストリアやイギリスの有名な法学者らに会い勉強した。神奈川県の金沢文庫に、彼がその時勉強した英語や日本語のノートが残っているが、研究者によると、そうとう理解の程度が深く、日本では一番だという。

 伊藤博文は介入拒む

 1886(明治19)年、陸奥がヨーロッパから帰国すると、日本ではその前年、内閣制度が設けられていた。内閣制度は行政権の主体。次はいよいよ立法権、憲法をつくり議会を開く。それが5年後に迫ってきた。

 その陸奥がイギリスで見たのは自由党と保守党の二大政党制だった。陸奥は、おそらく日本の議会政治にとっても、この二大政党制というものが、最後の目的だろうと考えたのだった。

 しかし、そこには絶対的な溝がある。イギリスは議会を開き二大政党制に到達するまで約200年かかった。ところが陸奥たちは、明治維新から二十数年、あるいはそれより短期間で実現しようとしている。普通なら絶望するだろう。ところが明治の人たちの不思議な楽観さというのがあって、見よう見まねで近代化はできるというふうに、政府の人たちは思った。陸奥などは、真に人民に開かれた政治が政党政治なのだから、まねごとであってもそれはやらなければならないと。そこで陸奥は、井上馨などと組み政党をつくる運動をこの頃から始めている。

 一方、伊藤は、憲法を作っていく過程で「政党というのはいかん」と、有名な「超然主義」を宣言した。超然主義というのは、すでにでき始めていた自由党や改進党といった政党に左右されず、明治政府は超然として立つ。「議会は開くが、おまえたちの言いなりにはならないし、議会が政府にいろいろと介入することは許さない」という考え方だった。

 議会が開かれる前から、それを言ってしまっては、最初から政党と対立することが決まってしまう。政党ができなければだめだという考えの陸奥などは、そういう政党を挑発するような宣言をする必要はない、と言っていたのだが。

 ※「戊辰戦争」「明治維新」を新たな視点で問い直す長期大型連載「維新再考」は、引き続き福島民友新聞で毎週月曜日に掲載します。どうぞお読み下さい。

 ※大型連載企画「維新再考」の第1部「識者に聞く」のうち、第2シリーズ「中村彰彦さん編」(全7回)が保存版になった。すでに保存版にまとめた第1シリーズ「半藤一利さん編」とともに福島民友販売店で無料配布している。

 提供についての問い合わせは福島民友新聞社販売局(電話024・523・1472)へ。