【維新再考・動乱の舞台】京都編5 一会桑勢力幕政リード

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国宝の二条城・二の丸御殿。江戸時代の武家風書院造りの代表的建物

 「維新再考」第2部は、幕末の政局の中心地・京都をたどっている。京都の治安維持を役目とした会津藩は、朝廷と結び付き政治のかじ取り役として歴史を動かした時期がある。「大政奉還」前後の会津藩の動きに焦点を当てた。

 旧体制批判の矛先に

 京都市中京区を歩く。平安時代に造営され、天皇が遊覧する庭園だった「神泉苑(しんせんえん)」に着いた。平安京の痕跡を示す数少ない史跡で、真言宗開祖・空海の雨乞い、源義経と静御前の出会いの場としても有名だ。江戸時代初期、大部分は世界遺産「二条城」(注1)に姿を変えた。

 徳川幕府を開いた徳川家康は1603(慶長8)年、天皇から征夷大将軍を任せられ、祝賀を二条城で行った。時を経て1867(慶応3)年、15代将軍慶喜(よしのぶ)が政権を朝廷に返上。大政奉還(注2)を表明したのも二条城だ。幕府の始まりと終わりの象徴がここにある。

 出入り口の東大手門に設置された「大政奉還150年」(2017年)のモニュメントを横目に、国宝の二の丸御殿に足を運ぶ。大政奉還の舞台・大広間は、将軍が大名と対面する最も格式の高い部屋。松が描かれた障壁画や、格天井(ごうてんじょう)が威厳を際立たせる。幕府終焉(しゅうえん)の緊迫感を肌で感じた。

 「幕末の会津藩は支配者的な位置を占めた。会津藩の動向を軽視しては幕末史は語れない」と語るのは、幕末維新史を専門とする歴史学者の家近良樹さん(67)=京都市。大政奉還に関して家近さんの著書「江戸幕府崩壊」が詳しい。

 会津藩は、藩主・松平容保(かたもり)が1862(文久2)年に京都守護職に就き、孝明天皇の信頼を得て長州藩など過激な攘夷(じょうい)派を一掃。64年からは御所警備の新たな役職に一橋慶喜(後の15代将軍)、京都所司代に容保の実弟で桑名藩主の松平定敬(さだあき)が就く。3者による「一会桑(いっかいそう)勢力」(一橋、会津、桑名の頭文字)が確固たる地位を築き、朝廷を掌握しながら幕政をもリードしていく。

 しかし3年もたたずして、14代将軍家茂(いえもち)と孝明天皇が急逝、政局は一変した。将軍に就いた慶喜は、一会桑に対抗するように同盟を結んだ薩摩、長州両藩などの反幕府勢力と対立、67年秋、大政奉還に至る。慶喜はもはや幕府が単独で政権を担当できないとして打開を図ったとみられる。

 会津藩中枢にいた山川大蔵(浩)が後につづった「京都守護職始末」によると、大政奉還前の政情は、幕府が次第に疎外され、倒幕論が公然となっていった。会津藩は朝廷とのつながりが薄れ、公武合体(幕府と朝廷を結ぶ幕藩体制の再編強化)の実現は「一筋の細糸」となった。大政奉還の10日前、土佐藩士の後藤象二郎が会津藩士に、この策の説明に来た。同じ頃、慶喜から容保にも話があり、容保は「英断をたたえた」という。

 会津藩は大政奉還に表向き賛成した。しかし実際は反対だったようで、再び幕府に政権が委任されるよう朝廷や有力大名に働き掛けた。家近さんは「会津藩は、全国を統治する能力は幕府にしかないと考えた。京都を追われた長州藩の赦免も予想されたが、長州藩からは(京都での厳しい取り締まりで)恨みを買っていたから、対立の激化を危惧した」とみる。

 大政奉還の後、主導権を握ったのは薩摩藩で、すぐに対抗勢力の排除に着手した。このうち会津藩については、新しい政治を否定し旧体制の存続を図る立場とみて、敵視していた。「薩摩藩は旧体制の象徴だった会津藩をたたくことで、新政府成立を印象づけようと考えていた」と家近さん。会津藩の立場は急激に悪化する。

 67年12月、会津藩は突如、薩摩藩などに御所を追われ二条城に退く。王政復古のクーデター。会津藩士は「切歯扼腕(せっしやくわん)」(激しく怒り、くやしむ)し一触即発の状況だった(「京都守護職始末」)という。
 150年後、見晴らしの良い二条城の天守台に立ち、会津武士の心情をかみしめた。

(注1)二条城 徳川家康が1603(慶長8)年、京都御所の守護と将軍上洛時の宿所として造営。京都での江戸幕府の権威の象徴となった。幕末に15代将軍徳川慶喜が二の丸御殿大広間で大政奉還の意を表明した。明治になって皇室の宮殿の一つ「離宮」となった。
(注2)大政奉還 1867(慶応3)年10月(旧暦)、15代将軍徳川慶喜が政権を朝廷に返上した。10月12日までに会津藩など重鎮に知らせ、13日に大藩重役に意向を表明、14日に天皇に上表、15日に承認された。ただ征夷大将軍の辞表は保留され、12月9日の「王政復古の大号令」までは将軍が武家のトップにあった。

 連載「維新再考」の保存版は、第1部「識者に聞く」のうち、「半藤一利さん編」(全7回)、「中村彰彦さん編」(全7回)、「磯田道史さん編」(全3回)、「森田健司さん編」(全7回)の4編があります。福島民友販売店で無料で提供しています。問い合わせは福島民友新聞社販売局(電話024・523・1472)へ。