【維新再考・流転の地】斗南編4 「国辱雪ぐまでは戦場」

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開拓に入った旧会津士族たちの姿を再現したブロンズ像。奥には再現された建物が立つ=昨年12月、青森県三沢市・斗南藩記念観光村

 旧会津藩士と家族らが陸奥の地「斗南(となみ)藩」領に移り住んだ1年目の1870(明治3)年。山川浩ら藩の首脳たちが新しい国づくりに奔走する中、移住者たちは最初の厳しい冬を迎えた。人々は何を思い、飢えと寒さに耐えたのか。作家・星亮一さんによる斗南編第4回は、逆境にあった会津人の胸中に迫る。

 「田名部(たなぶ)(現青森県むつ市田名部、以下かっこ内の地名は同県)の傍らに広原があり、乾燥し湿気の少ないところの開拓を進める」

 1870年7月、斗南藩が支援を求め政府に出した陳情書には、田名部周辺の開墾計画が記されている。「斗南ケ丘」と名付けたこの丘陵の開拓を権大参事山川浩ら藩首脳らが重要視していたことが分かる。

 そして、納屋などに住み、病人が続出するような苦境を脱するため、移住者が雨風をしのぐ住居が欲しかった。

 斗南ケ丘は、田名部の現市街地から約4キロ北東にある。ここに区割りが施され同年10月、約110棟の掘っ立て住居が完成。約200戸、約800人の会津人たちが移り住んだ。

 《編注・斗南ケ丘の一部は現在「斗南藩史跡地」として保存され土塁跡が残っている》

 並行して大湊(現むつ市大湊地区)に近い松ケ丘にも約30棟が建設され、三本木(現十和田市)、三戸、五戸でも建設が始まった。

 こうした、事業を取り仕切った山川ら藩首脳について、改めて触れてみたい。

 山川は腕っ節が強く大胆、同時に怜悧(れいり)とも評された。戊辰戦争では鳥羽・伏見、日光口で奮戦。新政府軍が囲む鶴ケ城へ彼岸獅子に紛れ入城した逸話は広く知られ、22歳で軍事総督として籠城戦を指揮した。会津藩再興のため奔走し「敵」に頭を下げる屈辱も味わった。権大参事就任は衆目の一致するところだった。

 権少参事の広沢安任は当時40歳で、下級武士の出。江戸昌平黌に学んだ秀才だが、父を早くに亡くし母を助け働いたため、昌平黌に入学した時は30歳に近かった。斗南では殖産興業を担当。周囲の信頼も厚く斗南の地にいち早く入り準備に当たった。

 同じく権少参事の永岡久茂は30歳。弁論に秀でた熱血漢で、昌平黌に留学した。酒と女性を愛し、会津藩の中では異色の存在だった。安渡(大湊)を屈指の貿易港にする―と壮大な夢を漢詩に詠んでいる。

 藩庁では、門閥を排し実力主義で選ばれた幹部の下、住居開発のほか学校や授産所、救貧所の開設など諸施策が進められた。不足する財源の確保には、山川らが政府のほか諸藩に対しても支援を求め奔走。弘前藩からは計1050両が贈られた。

 南部藩士新渡戸伝(つとう)の支援は本格的だった。伝は、国際連盟事務次長も務めた思想家、新渡戸稲造の祖父で、荒れ地だった三本木の開拓に成功した先駆者。会津からの移住者100戸の三本木入植を引き受け、農具の援助、開拓法の伝授なども行った。この厚意に広沢安任は涙した。

 極貧、寒さ耐え抜いた

 ただ、新しい国づくりは長丁場。成果が表れるまでの間、移住した人々が耐えられるのかが、大きな問題だ。やがて、斗南移住後初めての冬が来た。

 後に陸軍大将となる柴五郎=当時(10)=は、藩士だった父と兄嫁との3人で田名部の在に小さな空き家を借り住んでいた。この冬の様子は「ある明治人の記録」(石光真人編著)に詳しい。

 台所兼用の10畳間は板敷きで、障子は骨ばかり。炉に火を入れても、寒風が部屋を吹き抜け、室温は氷点下10~15度。炊いたかゆは石のように凍った。布団も満足になく、熱病にかかった時も米俵に潜って寝た。

 五郎たちが犬の肉を口にした話は有名だ。

 川の氷の上で遊んでいた犬を猟師が撃ったが、氷が薄く近づけない。五郎は父に言われ、犬の飼い主に死体をもらい受け、もう一人の会津人と半分ずつ分け合った。その日から柴家の食事は毎日、塩で味付けした犬の肉になった。

 五郎は無理をして肉を口に入れたが、喉につかえ吐き気を催した。これを見て父がどなった。

 「会津の武士ども餓死して果てたるよと、薩長の下郎どもに笑わるるは、のちの世まで恥辱なり。ここは戦場なるぞ、会津の国辱雪(そそ)ぐまでは戦場なるぞ」

 五郎の父の考えは、陸奥に来た会津人に共通のものだった。恨みを晴らすまでは歯を食いしばる。そう言って極貧を耐えたのだ。

 斗南ケ丘では、積もった雪の重みで住居がつぶれ、犠牲者が出る被害も出た。だが葬儀代にも事欠くありさまだった。

 私は30年以上前、むつ市を訪れた際、地元の人に「土まんじゅうが見つかった」と案内された。開拓当時、亡くなった会津人を葬った跡で、中からは家族だろう、3人の遺体が見つかった。案内した人は、土まんじゅうに土下座して号泣した。

 連載「維新再考」の保存版は、第1部「識者に聞く」のうち、「半藤一利さん編」(全7回)、「中村彰彦さん編」(全7回)、「磯田道史さん編」(全3回)、「森田健司さん編」(全7回)の4編があります。福島民友販売店で無料で提供しています。問い合わせは福島民友新聞社販売局(電話024・523・1472)へ。