【健康長寿・減塩(4)】「だしを引き出せ」 プロが教える料理のこつ

 
わずかな塩で「具だくさん野菜スープ」を作る参加者。試食すると「これはおいしい」と驚きの声が上がった=8月、郡山市中央公民館

 「うん、おいしいね」。参加者から驚きの声が上がった。その瞬間、日本調理技術専門学校(郡山市)の日本料理教員、田中勇大さん(35)の顔がほころんだ。

 郡山市は8月から新規事業の「減塩教室」を始めた。講師には料理のプロである田中さんが選ばれた。「おいしく減塩を続けるこつを教えてほしい」という市の依頼に「今こそ料理の原点に戻ることが必要だ」と考えた。「料理の基本はだしにある。だしをしっかり取ることが減塩につながる」

 減塩教室で実演したメニューは「こづゆ風・具だくさん野菜スープ」と「鯛(たい)とキュウリの土佐酢和(あ)え」。田中さんはまず、昆布とかつお節による「一番だし」の本来の作り方を丁寧に説明した。

 「おいしいだしなら、少しの塩でおいしいお吸い物ができる。みそ汁も同じ。上手にだしを引き出せば、みその量を減らせる」

 汁物は素材のだしも生かせるため、具だくさんほどいい。材料を入れ終わったら、水の量が2割減るまでゆっくり煮詰める。十分に煮出してから味見をし、それから塩の量を決めるのがポイントだ。

 酢などの「酸味」が、塩分の代わりになるのは知られているが、和え物で田中さんが薦めるのは「土佐酢」だ。酢にかつお節のだしが加わっており、うま味が引き立つ。ショウガなど香味野菜も活用すれば、強い香りで風味が一層際立つそうだ。

 さらに和え物の場合、しょうゆをたっぷり付ける刺し身とは違い、塩分を抑えられる。ボリュームが出て主菜にもなるため、食事の量そのものを減らせる。

 参加者の女性(66)は、家族のために減塩を勉強したくなり受講した。今のところ夫の血圧は安定しているが、夫の母が急性心筋梗塞で亡くなっている。塩分には気を付けているつもりだが、基準が分からず不安だった。「本格的なだしの取り方を覚えられたことが良かった。毎回は無理かもしれないが、時間があるときはやってみようと思う」

 教室運営を担当する郡山市保健所の栄養士・森谷雅子さん(47)は「減塩は継続しないと意味がない」とキッパリ。「おいしい料理でなければ続かない。そのために講師はプロの調理師にお願いした。参加者の喜ぶ顔にほっとした」

 ただし、課題も残る。参加者は定員24人に対し6人だった。しかも、そのほとんどは60歳超。「本当は、働き盛りの人にこそ入り込まないと。減塩の意識を持ち始めるのは若いほど効果的だ。時間はかかるかもしれないが、少しずつ地域に広めていきたい」