【健康長寿・過信(3)】当日に「健診」結果 即座に指導や教育

 

 「健診というテキストがありながら、なぜ放棄するのか。一生を上手に過ごすために役立ててほしい」。平均寿命が全国最下位の青森県で唯一の医学部がある弘前大の中路重之特任教授(67)は健診の意義を訴える。中路教授を中心とした弘前大の研究グループは「短命県返上」を目指し、新しい健診モデルを開発、青森県民や全国各地に普及させる取り組みを始めた。

 新健診の名称は「啓発型健診」。〈1〉即時性=健診結果をその日に返却〈2〉包括性=肥満度や高血圧などメタボリック症候群、骨粗しょう症や筋肉減弱症などロコモティブ症候群、口腔、鬱(うつ)・認知症を総合的に健診〈3〉啓発性=健康啓発・教育の第一歩―の3点が特徴。受診者は勤務先の企業などで事前に実施した血液検査などのデータを持ち込み、そのデータに基づく個別指導を医師から受けることも可能だ。中路教授は「対人なので臨場感がある上に、問題点を迅速に伝えることができる」と話す。

 従来の一般的健診は、結果通知まで時間を要し、問題があってもその後の治療や再検査、生活改善につながりにくいという課題があった。啓発型健診では検査の結果判明が即日のため、健康教育プログラムをその日のうちに受けることで、県民の健康改善につなげる狙いがある。

 5年ごとに厚生労働省が公表する都道府県別生命表で、青森県は前回に続き、2015(平成27)年も男女ともに平均寿命が全国最下位だった。男性は1975年、女性は00年から最下位が続いている。「最短命県の理由は県民の喫煙率が高く、生活習慣も悪く、健診の受診率も悪い。しかも病院に行くのが遅い上にしっかり通院していない」。中路教授の指摘は都道府県別平均寿命で男女とも40位台で推移する本県にも当てはまるだろう。

 子どもの教育から

 青森県では県民の平均寿命、健康寿命の延伸に向けて、学校や企業と連携した健康づくりの普及、啓発事業にも力を入れる。これまでに県内70以上の小、中学校で健康授業を実施、教諭が子どもに肥満や喫煙、飲酒などの生活習慣が三大生活習慣病の発症要因になることや、予防や将来の発病の備えとして、健診を通した知識習得の必要性を説いてきた。中路教授は「県民が自分で健診のデータを理解できる力を身に付ける取り組みが必要。特に、子どもの教育から始めなければならない」と持論を語る。

 青森県は首長が住民の前で健康づくりの取り組みを誓う「市町村健康宣言」も展開中で、現在全40市町村中、37市町村が参加した。中路教授ら関係者の試行錯誤は続く。「健康づくりの基本原則は『人民の人民による人民のための健康』。民主主義と一緒で、誰でも健康になる権利はあるが、それは自分で勝ち取らなければならない」