【健康長寿・過信(5)】病気予防1000人健診 ビッグデータ活用

 

 「大規模健診から病気を予測し、予防につなげる。地域を巻き込み、その健診の成果を地域社会に戻すことこそが大切だ」。弘前大COI研究推進機構の村下公一教授は、同大医学部が実践する健診の意義を強調する。名称は「岩木健康増進プロジェクト」。2005(平成17)年から毎年5月末~6月上旬に青森県弘前市岩木地区の20歳以上の住民約1000人に健診を受けてもらう取り組みだ。

 健診期間は10日程度で、大学病院を移動させたかのような設備を地区内の体育館に持ち込む。医療スタッフは約300人。検査項目は血液や体重などにとどまらず、遺伝子レベルから飲酒、食事、睡眠などの生活習慣、学歴、所得など社会的データまで2000に及ぶ。村下教授は「健診データを即時に住民に返し、大学病院の医師が一人一人に最新の知見で指導する。その後も健康相談会を定期的に開き、診療科ごとに相談に応じている」と説明する。

 近年、歩行と認知症との関連が注目される中、住民の歩き方まで多角的に評価し、全ての診断結果を健康改善に反映させている。「14年前も青森は日本一の短命県だった。だからこそ(県内で唯一、医学部がある)弘前大がやらなければならなかった」。14年間、延べ2万人に及ぶ健常人の健康情報(健康ビッグデータ)が蓄積され、データは国内外で注目されている。

 13年には国の革新的イノベーション創出プログラム「COI(センター・オブ・イノベーション)」の拠点に採択され、健診データを病気の予兆や健康関連ビジネスにつなげる実証事業が始まった。データは民間企業が入手できない貴重な内容で、花王やライオン、サントリー、エーザイなど大手を中心に50の企業・研究機関が弘前大COIに参加。各社は検査機器、健康増進サービスなど開発テーマを設定、内臓脂肪の低減や認知症検査の実用化など多分野で成果が出てきた。

 こうしたビッグデータを活用した新ビジネス創出で県民の寿命延伸と地域経済の活性化を実現し、同県内で最終的に240億円の経済効果と1800人の雇用創出、520億円の医療費抑制を目指す。

 福島県とつながる運動

 短命県脱出に向け県民運動に着手した当時の青森県の姿は、県民の健康指標改善が急務とされる本県の現状につながる。震災と原発事故を受けて取り組む県民健康調査では、避難区域に指定された地域の住民ら約21万人を対象にして健診や生活習慣の調査などが続けられている。避難生活などがもたらす健康影響への懸念から始まった調査だが、この「ビッグデータ」を県民の健康長寿実現にどう活用するか、先進地の取り組みを踏まえた検討が求められている。=第5部過信・おわり