【健康長寿・禁煙(1)】まさかの依存症診断 医療の力借りてみた

 
石橋副院長(左)の診察で、呼気中の一酸化炭素濃度を測定する記者。「ニコチン依存症」と診断された際はショックだった=10月、福島市・大原綜合病院

 健康診断のたびに医師が勧める「禁煙」。喫煙の健康リスクは知られているが、本県の成人男性の喫煙率は国の2016年調査によると35.2%で、全国6番目に高い。健康長寿を進める上で、県民の喫煙習慣の問題は避けられない課題だ。現状と求められる対策を探るため、まず記者(39)が禁煙外来を体験してみた。

 「ニコチン依存症」。医師がカルテにそう記入するのを見て「自分は依存症なのだ」と衝撃を受けた。10月3日、福島市の大原綜合病院の禁煙外来を受診し、現実を突き付けられた。

 「子どもが生まれたわけだし、禁煙にトライして体験記を書いてみたらどうか」。9月、社内でそんな話が出たが、最初は正直気が進まなかった。その理由は成功するとは思えなかったから。大学生の頃から20年近く、一日も休まず吸っている。出張や旅行で見知らぬ場所に着けば、まず喫煙所を探すことが習慣になっている。そんな自分に禁煙ができるのだろうか。

 一方、4月に第1子が生まれ、このままでいいのかと思うところがあった。厚生労働省によると、受動喫煙と乳幼児突然死症候群(SIDS)について「因果関係を推定するのに十分」と強い関係性が指摘されている。

 外来治療は保険適用

 覚悟が決まらないまま、循環器内科・動脈硬化が専門で、同病院で禁煙外来を担当する石橋敏幸副院長(63)が待つ診察室に恐る恐る入った。

 まず問診票への回答を求められた。「禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありますか」などの設問で、「はい」一つにつき1点。5点以上がニコチン依存症と診断され、自分は8点だった。

 「1日の本数×吸った年数」を「ブリンクマン指数」と言い、これが200以上かどうかが一つの基準になるという。1日20本吸っていた私はその基準を優に超えた。診察では、呼気中の一酸化炭素濃度の測定も行われた。

 もう吸えないと思い、最後の1本を惜しみながら吸って病院を訪れたが、禁煙開始は1週間後と説明され、少し拍子抜け。1週間は喫煙しながら薬を飲み、徐々に薬を増やしていくという。

 治療は3カ月で、年内に終わる予定だ。保険適用となり、自己負担は全部で2万円程度という。たばこを吸った本数を毎日記入する手帳を渡された。「禁煙開始後も吸いたくなったら吸っていい。吸っても、おいしくないと感じることが大事だ。ただ、正直に記入してください」。そう話す石橋先生の柔和な表情に緊張がほぐれた。

 気合よりも薬が有効

 処方された錠剤「チャンピックス」を、最初は1日1回、4日目からは1日2回服用した。次第にたばこの味が変わったと感じるようになった。予定通り、10月10日、禁煙を始めた。

 1カ月が経過した今でも禁煙は続いている。喫煙したいと感じる瞬間はあるのだが、一瞬なので我慢できる。喫煙所を探しながら歩いていた頃を思うと、薬の効果の大きさに驚かずにいられない。思えば、当初禁煙外来に気が進まなかった理由の一つに「薬に頼る格好悪さ」があった。「自分の意志ではやめられない」と認めるのが嫌だったのだ。

 このまま順調に進むか分からないが、感じるのは、強い意志や「気合」は禁煙に必須ではなく、医療に頼るのは有効な手段だということだ。

 家に帰って長女を抱っこする。喫煙していた頃の罪悪感がなくなった。

 「喫煙習慣=病気」を治療

 禁煙外来は、喫煙する習慣を「ニコチン依存症」という病気と捉え、禁煙治療に取り組む医療機関のことだ。

 2006(平成18)年の診療報酬改定に伴い、一定の条件を満たした場合は保険適用になる。TDSニコチン依存度テストで5点以上になりニコチン依存症と診断されることや、35歳以上の人についてはブリンクマン指数(1日の本数×吸った年数)が200以上であること、直ちに禁煙を希望してること、医師から受けた禁煙治療の説明に同意することが条件となる。医療機関側も一定の条件を満たす必要がある。

 標準的なプログラムでは、約3カ月間で計5回の診察が行われる。診察では、医師のカウンセリングや禁煙補助剤の処方のほか、息に含まれる一酸化炭素の濃度を測定する。一酸化炭素はたばこの煙に含まれる有害物質の一つだ。

 県はホームページで禁煙外来情報を公開している。それによると県内に禁煙外来は184カ所ある。内訳は県北56、県中53、県南9、会津25、南会津3、いわき28、相双10。医院や総合病院など幅広い医療機関で禁煙治療を行っている。