メタボリックシンドロームと診断されたら

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニック(福島市)の梅津啓孝先生が、メタボリックシンドロームの治療についてお話くださいます。
メタボリックシンドロームと診断されたら
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 12月号でもお示しいたしましたが、メタボリックシンド ロームと診断されるのは、まず、ウエスト周囲径が、男性85センチ以上、女性90センチ以上であること。さらに(1)中性脂肪150ミリグラム以上かつ (または)HDLコレステロール40ミリグラム未満、(2)収縮期血圧130以上かつ(または)拡張期血圧85以上、(3)空腹時血糖170ミリグラム以 上―の3項目のうち、2項目以上を合併した場合です。このメタボリックシンドロームの診断基準の大きな特徴は、心血管事故の重大な危険因子として知られて いるLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が基準の項目に含まれていないことです。これは、LDLコレステロールの代謝が、中性脂肪やHDLコレス テロール、糖代謝、血圧、インスリン抵抗性などとは比較的独立しているためです。したがって注意しなければならないのは、メタボリックシンドロームの治療 が成功し、インスリン抵抗性が是正されても、高LDLコレステロール血症に対する治療は別に必要だということです。

治療の主な目的を理解して

 メタボリックシンドローム治療の主な目的は、粥状動脈硬化症によって起こる虚血性心疾患や脳血管障害と糖尿病の発症予防です。粥状動脈硬化症とは、大動 脈や脳動脈、冠動脈(心臓の血管)などの比較的太い動脈に起こる動脈硬化です。具体的には、動脈の一番内側の膜の下に、コレステロールなどの脂肪からなる ドロドロした粥状物質がたまって、次第に血管の壁が厚くなり、動脈の内腔が狭くなります。また、血管の内側の膜がもろくなり、ここが破れると血栓(血の 塊)ができ、脳梗塞や心筋梗塞が起こってしまいます。

生活習慣の乱れからドミノに

 メタボリックシンドロームの進行は"ドミノ倒し"に例えられています。最も上流にあるのは"飲み過ぎ・食べ過ぎ・運動不足"などの生活習慣の乱れです。 これらにより体重が増え、内臓脂肪が増加します。肥満症となり、インスリンの働きも弱くなります(インスリン抵抗性)。血圧や脂質が上昇し、動脈硬化が進 行します。血糖値も上昇して糖尿病を発症し、眼底の網膜や腎臓、神経などが障害されます。さらに脳血管障害、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患も起こっ てしまいます。メタボリックシンドロームの治療では、最上流の"悪い生活習慣の修正"が最も重要であることをご理解いただけると思います。

仕組み考え解決の糸口を探る

 しかし、忙しい毎日のなかでの生活習慣の修正は、容易なことではありません。そこで、メタボリックシンドロームの仕組みをもう少し詳しく考えて、解決の 糸口を探ってみたいと思います。内臓脂肪の脂肪細胞からは何種類もの「善玉と悪玉アディポサイトカイン」という物質が分泌されています。悪玉のアディポサ イトカインとしては、血糖や血圧を上昇させるものや血管に障害を与えるもの、血栓を作りやすくするものなどが多数存在します。一方、善玉のアディポサイト カインの代表としては「アディポネクチン」があります。アディポネクチンは、インスリン抵抗性を改善し、メタボリックシンドロームを改善すると考えられて います。このアディポネクチンは、"小型の脂肪細胞"から分泌されるのです。内臓脂肪が増えると脂肪細胞が肥大し"大型の脂肪細胞"になります。大型の脂 肪細胞からはアディポネクチンは分泌されず、インスリン抵抗性を悪化させる「悪玉サイトカイン」が誘導されてしまいます。生活習慣の改善の目的は、大型の 脂肪細胞を減らし、小型の脂肪細胞を増やすことにあります。

生活に「プラス10運動」を

 具体的に実行すべきことを考えてみましょう。まず、内臓脂肪を増やさないこと。過剰なカロリー摂取を抑えることは当然ですが、食事をとる時間が遅いほど 肥満、血糖の上昇が起こりやすいので、夕食はなるべく早めにとりましょう。やむを得ず深夜に食事する場合には、野菜をとり、食後の血糖の急激な上昇が起こ りにくい食材を選んで食べることも有効です。アルコールは、なるべく控えるようにしましょう。睡眠が不足すると、肥満や血糖上昇を招くので、できる限り適 切な睡眠をとるよう心がけてください。大型化した脂肪細胞を小型に戻すためには、運動が重要です。脂肪や糖質の消費は筋肉で行われるため、運動の時に使用 する筋肉の選び方も重要ですが、この話は後日にいたします。内臓脂肪の減量には1日30分以上の有酸素運動が有効と言われてきました。現在では、連続した 運動でなくても運動した時間を足して30分程度になれば運動効果は十分あると考えられています。また、お忙しい方は、1日10分の運動を日常生活に取り込 む努力をしてみましょう。運動の効果を体感できると思います。厚生労働省は、この"プラス10"運動を推奨しています。「プラス10運動」で検索してみて ください。ストレッチ体操も筋力トレーニングに近い運動効果が期待できますので、お勧めです。

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 次回は、メタボリックシンドロームと心疾患、脳血管障害などの関連を考えてみたいと思います。
1月号より