糖尿病 ~正しい情報を正しく理解しましょう

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、今回から糖尿病についてお話くださいます。
糖尿病 ~正しい情報を正しく理解しましょう
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 今月から「丈夫で長生き」を妨げてしまう、血糖や血圧、脂質の異常など、個別の疾患に関してお話して参ります。まず、糖尿病の話から始めます。

健康ビジネスの標的になりがち

 読者の皆さんは、糖尿病に関して、どのようなイメージを持たれているでしょうか。血糖が上がる病気、飲酒や過食、甘いものの食べ過ぎで起こる病気、運動 が少ないと起こる病気、放置すると心臓病や脳梗塞になるので怖い病気―など、いろいろと挙げられるでしょう。糖尿病に関しては情報が氾濫しています。糖尿 病は健康ビジネスの標的となることが多く、情報の選択には注意を要します。また、正しい情報も理解の仕方を誤ると、残念な結果を招きかねません。今月号か らのお話が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。

受診を阻む要因を取り除いて

 2013年12月に厚生労働省から発表された「2012年国民健康・栄養調査結果」によると、糖尿病が強く疑われる人(ほぼ糖尿病患者)は約950万人 でした。これは、07年より約60万人増えています。一方、糖尿病の可能性を否定できない人(ほぼ境界型糖尿病)は約1100万人でした。07年より 220万人減少しており、糖尿病発症予防への意識の高まりが浸透しつつあるのだと思います。糖尿病の受診率も、やや改善しているのですが、それでも治療を 受けるべき人たちのうち、男性27.1%、女性31.3%が、ほとんど治療を受けていない状態にあります。特に、40歳代に限ると、糖尿病が強く疑われる 人のうち、現在治療を受けていない人が、男性で60.7%、女性で57.1%にものぼります。なぜ、このように治療不十分の人が多いのでしょうか。「初期 の糖尿病は自覚症状が少なく、治療の開始が先延ばしがちになる」と、よく言われます。これも確かに一理ありますが、雇用形態による受診困難や経済状態な ど、受診を阻む要因は、ほかにも多数存在しています。保険診療という契約行為を順守して、糖尿病の治療を継続していくためには、周囲の温かい理解と配慮が 必要だと思います。
 糖尿病学会が掲げている糖尿病の治療の目的は"健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)の維持、健康な人と変わらない寿命の確保"です。その前段階 として、糖尿病細小血管合併症および動脈硬化性疾患の発症を予防し、進展を阻止することが求められます。これらを実現させるには、血糖、体重、血圧、血清 脂質の良好なコントロール状態の維持が重要となります。

引き起こされる合併症を整理

 糖尿病が引き起こす主な合併症について整理してみましょう。個々の合併症の詳しい説明は後日いたしますので、今回は、簡単な整理にとどめます。
 血糖が高いために起こり、緊急の対応が必要な合併症には、(1)糖尿病ケトアシドーシス(2)高浸透圧高血糖症候群(3)感染症―などが挙げられます。 (1)糖尿病ケトアシドーシスは、体内のインスリンという血糖を下げる働きをするホルモンの作用が著しく低下した状態で引き起こされる、命にかかわる状態 です。インスリンが絶対的に不足している1型糖尿病(後日、説明いたします)の患者さんに起こりやすいのですが、2型糖尿病(通常の糖尿病)患者さんでも ソフトドリンクを大量に飲むと、発症することがあります。(2)高浸透圧高血糖症候群とは、高齢の2型糖尿病患者さんに起こりやすい、これも命にかかわる 状態です。感染症や熱傷など、脱水症を引き起こしてしまう病気やけがが引き金となって起こってしまいます。(3)感染症は厄介です。高血糖の状態では感染 症にかかりやすくなるため、血糖のコントロールと日ごろの感染予防が大切です。

慢性合併症の予防こそ最重要

 糖尿病治療の最も重要なポイントは、慢性に進行する合併症の予防、進展の防止にあります。慢性合併症は、極めて細い血管が障害されて起こる細小血管症、 比較的太い血管が障害されて起こる大血管症と、その他の合併症に分類されます。これらの慢性合併症には、高血糖だけでなく、高血圧や脂質異常(中性脂肪の 高値、悪玉コレステロールの高値、善玉コレステロールの低値など)が関係しています。さらに、それぞれの合併症は独立したものではなく、互いに密接に関係 しながら悪化します。
 細小血管症の代表は、(1)糖尿病網膜症(2)糖尿病神経障害(3)糖尿病腎症です。(1)糖尿病網膜症が進行すると視力障害が進み、日常生活の質が著 しく低下します。網膜症の治療には、血糖の良好なコントロールが重要です。しかし、網膜症があまりにも進行している場合には、血糖値を穏やかに調整するな どの配慮が必要になります。(2)糖尿病神経障害は、手足のしびれや痛みなどに関連する末梢神経障害と、血圧や排尿、排便、発汗などの異常に関連する自律 神経障害に分けられます。(3)糖尿病腎症は、透析治療への導入原因となる疾患の第1位を占めています。血糖と血圧、脂質のコントロールはもちろん、治療 薬の選択や腎臓の障害の程度に合わせた食事療法が重要です。
 糖尿病大血管障害の代表は、(1)虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)(2)脳血管障害(脳梗塞、脳出血)(3)閉塞性動脈硬化症―などです。虚血性心疾 患に関しては、メタボリックシンドロームの説明のときに触れましたが、糖尿病を合併している場合の、血糖や治療との関連などについても、後日さらに詳しく お話いたします。
 その他の合併症を列挙します。まず糖尿病足病変です。これは、神経障害や末梢の血流障害が基礎となって起こります。靴ずれ、やけど、足底のたこ、水虫な どを契機として、足の切断に至る場合もあります。手病変も見逃せません。糖尿病患者さんの手に最も発生しやすい疾患は、狭窄性屈筋腱鞘炎(ばね指)です が、手根管症候群やDupuytren拘縮など、専門医の鑑別を要する疾患も認めることがあります。このほか、骨粗鬆症、歯周病、認知症、睡眠障害、悪性 腫瘍など、重要な疾患が合併します。後日、個別に説明いたします。
 

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 次回は、糖尿病の仕組み、分類などからお話を始めたいと思います。
3月号より