"適切な"糖尿病治療とは? できるだけ早いうちから始める

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、糖尿病の治療についてお話くださいます。
"適切な"糖尿病治療とは? できるだけ早いうちから始める
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 もし糖尿病と診断されたとしたら、皆さんはどうなさいます か?糖尿病の治療は、食事や運動、睡眠などの生活習慣の修正に加えて内服薬やインスリン療法などの治療が複雑で、途方に暮れてしまう方も多いのではないで しょうか。糖尿病の治療は、正しい治療方針に沿って、着実に実践していくことが大切です。今回は血糖コントロールを中心に、糖尿病治療の基本的な考え方を 紹介いたします。

血糖と血圧、脂質のコントロール

 2007年に発表されたSteno―2試験という研究があります。これは、デンマークで行われました。生活習慣の介入に加えて血糖、血圧、脂質に関して も注意深く管理したグループ(強化療法群)と、これまでの治療を継続したグループ(従来治療群)を比較して、血管合併症の予防効果を検討した試験です。強 化療法群の治療目標値はヘモグロビンA1c値6.5%未満、空腹時総コレステロール値175㎎未満、空腹時血清中性脂肪値150㎎未満、血圧130―80 未満でした。一方、従来治療群の治療目標値はヘモグロビンA1c値7.5%未満、空腹時総コレステロール値250㎎未満、空腹時血清中性脂肪値195㎎未 満、血圧160―95未満でした。7.8年間の試験期間終了時、両群の血糖のコントロールは不十分でした。ヘモグロビンA1cは強化療法群で7.9% (6.5%未満の達成率は15%)、従来治療群では9.0%でした。それでも、強化療法群では、従来治療群に比べて心筋梗塞、脳卒中、心臓関連死などが 53%、糖尿病腎症が61%、網膜症が58%、自律神経障害が63%抑制されました。血圧、脂質の目標達成率は45~70%と、比較的良好だったのです。 試験終了後、強化療法群と従来治療群の区別なく治療が行われ、5.5年間の追加の経過観察がなされました。血糖、血圧、脂質とも両群間で、ほぼ同じ値に近 づいたのですが、従来治療群よりも強化療法群において、狭心症や心筋梗塞など心血管に関連する異常が59%、腎症56%、網膜症43%、自律神経障害 47%発症率が低下していました。糖尿病発症初期に受けた厳格な治療の効果が、長期にわたって認められたのです。この研究から糖尿病と診断されたら、でき るだけ早く、血糖だけでなく、血圧、脂質(コレステロール、中性脂肪)の適切な治療を始めることの重要性がご理解いただけると思います。

血糖コントロールの目標値

 現在、日本での糖尿病の血糖コントロール目標値として、血糖正常化を目指す際はヘモグロビンA1c6・0%未満、合併症を予防するためには7.0%未 満、治療が困難な場合でも8.0%未満を目指すことが推奨されています。また、糖尿病を合併している高血圧の降圧目標値は、医療機関で測定した血圧では 130―80未満、家庭で測定した血圧では125―75未満と設定されています。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の管理目標値は、糖尿病の患 者さんでは120㎎未満です。さらに、糖尿病と狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患が合併している場合のLDLコレステロールは100㎎未満に管理すること が目標となっています。糖尿病と診断された場合は、できる限り早い段階から、これらの管理目標値を達成し、維持できるよう、主治医とご相談ください。

食後血糖値が高いと危険

 ここまでは、ヘモグロビンA1cによる血糖コントロールについてお話してまいりました。ヘモグロビンA1cは、1~2か月間の血糖の平均の目安です。つ まり、ヘモグロビンA1cは空腹時血糖値と食後血糖値の両者の影響を受けています。空腹時血糖を適正な値に維持することは、もちろん重要です。食後血糖は どうでしょうか。実は、多くの疫学研究において、食後血糖の上昇と、心血管疾患の発症リスクや発症後の経過(予後)の悪さとの強い関連性が示されていま す。また、食後高血糖は、網膜症、高齢者の認知機能障害、特定の癌の発症とも関連していると報告されています。食後高血糖が危険であるという具体的な報告 の一つに、隣県の山形県舟形町で行われている舟形町研究があります。境界型糖尿病者(糖負荷試験2時間後の値が正常より高い)では、狭心症・心筋梗塞のリ スクが増大しましたが、空腹時血糖のみ高い人では、それらのリスクの増大は認められませんでした。2型糖尿病の食後血糖のコントロールは難しいのですが、 180mg以上で心筋梗塞が有意に増加するという報告(DECODE研究)もあり、現在の食後血糖治療目標値は140mgとなっています。

低血糖にも注意が必要です

 それでは、血糖値は下げれば下げるほど良いのでしょうか? 答えは「ノー」です。これまでのお話と矛盾しているのではないかとお思いになる方もおられる ことでしょう。実は、糖尿病は、発症後の期間が短い患者さんと、経過の長い患者さんとでは、治療の方針が異なるのです。例えば、糖尿病を発症してからの経 過が長く、狭心症などの心臓血管疾患を合併している患者さんを対象に、インスリンを用いて厳格に血糖をコントロールした研究があります。強化療法群でヘモ グロビンA1c6%未満の厳格な血糖コントロールを目標とした研究(ACCORD試験、VADT試験)、ヘモグロビンA1c6・5%未満を目指した研究 (ADVANCE試験)など、いずれの試験においても、強化療法群で心血管イベント(虚血性心疾患など)を抑制する傾向はあったものの、従来治療群との有 意な差は認められませんでした。一方、いずれの試験でも重症低血糖の発症は増加し、ACCORD試験では、総死亡が22%増加してしまいました。つまり、 糖尿病発症後、長期間経過し、特に虚血性心疾患を合併している患者さんに、重症の低血糖を引き起こすような治療は、絶対に避けなければなりません。インス リン療法は、治療効果が確実であるぶん、きめの細かい配慮が必要になるということです。
 今回のお話をまとめます。糖尿病の治療で重要なことは、糖尿病と診断されたら、できる限り早いうちから治療を始めること。治療は、血糖だけでなく、血圧 や脂質も厳格に治療すること。血糖コントロールに関しては、低血糖を起こさないこと。糖尿病発症後の経過が短い場合、血糖はできる限り正常に近づけるこ と。特に、食後血糖に注意すること―が、ご理解いただけたと思います。  

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 次回は、具体的な糖尿病の治療についてお話いたします。
5月号より