糖尿病治療 ~食事、運動、薬物3療法のバランスが大切

 
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 前回までで、糖尿病は血糖のみならず、血圧や脂質などの治療が大切であることは、ご理解いただけたと思います。今回は、具体的な糖尿病の血糖治療についてお話してまいります。
糖尿病治療 ~食事、運動、薬物3療法のバランスが大切
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 それぞれの目的を理解して

 糖尿病の治療は、言うまでもなく食事療法、運動療法、薬物療法から成り立っています。食事療法と運動療法の目的は、まず、インスリン(血糖を下げるホル モン)の働きを良くすることです。そして、健康な体をつくり、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保する ことです。血糖を下げることは重要ですが、治療の目的は、決してそれだけではありません。患者さんには、深夜まで働く人、夜間勤務の人、単身赴任の人、接 待が仕事の人、子育てで忙しい人など様々なライフスタイルの方がいらっしゃいます。一方、医療機関で"指導"される食事療法や運動療法は画一的になりがち ですね。「米は食べないように」「野菜は必ず食前に食べて」「夕食はなるべく早く食べて」「朝昼晩の食事のバランスを良くして」「禁酒は必ず守って」「1 日30分は運動しましょう」「1日6000歩以上は歩いてください」などと、きつく言われてはいませんか?主治医の前では「はい」と答えても、それらを継 続して守っていくことが難しい患者さんも多いのではないでしょうか。食事療法や運動療法を成功させるためには、現在のライフスタイルを維持しつつ、可能な 範囲で修正を行い、糖尿病治療とのバランスを適切にとっていくことが重要です。現在は、糖尿病治療薬の選択肢がたくさんあります。食事療法、運動療法に薬 物療法を適切に取り込んで、ライフスタイルを維持しながらも、治療効果を上げていきましょう。

 治療薬には注射薬と内服薬

 糖尿病の治療薬には、注射薬と経口血糖降下薬(内服で血糖を下げる薬)があります。注射薬治療の代表がインスリン療法です。これは、インスリンを自分で 注射しなければならない治療法ですので、始めるためには、インスリンを打つ理由を納得できていることが重要です。1型糖尿病の患者さんは自分のインスリン が絶対的に不足していますので、インスリン療法が必須になります。2型糖尿病の患者さんの場合は少し複雑です。2型糖尿病の患者さんでも、自分のインスリ ンが少なくなって不足した場合は、インスリン療法が必要となります。また、自分のインスリンが十分に分泌されている場合でも、血糖値が極端に高い場合はイ ンスリン自己注射が必要となります。これは、長期間続いた高血糖状態によって、自分のインスリンの働きが鈍くなっているからです。インスリン注射によって 血糖を強制的に下げて、高血糖の悪影響を解消するとともに、自分の膵臓のβ細胞を休ませてあげることでインスリン分泌が回復し、血糖値が改善します。その 後、インスリン療法から経口血糖降下薬治療への変更が可能となることも多いのです。

 薬を組み合わせて血糖を改善

 経口血糖降下薬による治療は複雑です。以前お話したように、膵臓に負担をかけない、低血糖を起こさない、肥満をつくらない―などが、治療の前提となりま す。これらの基本的な条件を満たしながら、個々の患者さんに合った治療薬を組み合わせて、血糖を改善させなければなりません。経口血糖降下薬を開始する場 合、腎機能障害や肝機能障害の有無により、投与してはいけない治療薬を除外します。投与可能と判定できた経口血糖降下薬で治療を開始する時には、投与する 順番が重要です。2型糖尿病の患者さんは、膵臓から自分のインスリンが十分に分泌されている患者さんと、インスリン分泌量が不十分な患者さんとに分けられ ます。インスリンが十分に分泌されている患者さんでは、ご自分のインスリンをいかに有効に利用できるようにするかがポイントになります。経口血糖降下薬の 「メトホルミン」は、主に肝臓でのインスリンの働きを安定させ、「ピオグリタゾン」は、主に筋肉でのインスリンの働きを安定させます。欧州や米国の糖尿病 治療ガイドラインでは、メトホルミンが第一選択薬に選ばれています。インスリンの分泌が不十分な患者さんの場合、膵β細胞を刺激してインスリンの分泌を促 す必要があります。これは、膵臓に負担をかける治療ですから、治療薬の選択は慎重にしなければなりません。
 以前は、膵β細胞に直接作用して、長時間にわたりインスリンを分泌させる「スルホニル尿素薬」がたくさん使われていました。スルホニル尿素薬は、血糖を 強力に下げるのですが、低血糖の誘発や肥満の助長、そして膵β細胞の疲弊を招くため、最近ではごく少量の投与が主流になっています。スルホニル尿素薬に代 わって投与されているのが「DPP4阻害薬」です。DPP4阻害薬について少し説明します。糖分は小腸から吸収されて血液に溶け込みます。この時、小腸の 細胞から「インクレチン」というホルモンが分泌されます。インクレチンは、膵β細胞に作用してインスリンの分泌を促します。インクレチンは、食後に血糖が 上昇する時に合わせて作用するので、膵β細胞にかける負担はスルホニル尿素薬よりはるかに少ないのです。一方でインクレチンは、速やかに分解されてしまい ます。インクレチンを長持ちさせる作用を持つのがDPP4阻害薬なのです。そのほかには、小腸からの糖分をゆっくり吸収させる働きを持つ「α―グルコシ ダーゼ阻害薬」があります。この薬は、少しお腹が張ってしまう場合があります。最近では、上昇した血糖を尿中に排せつして血糖を下げる働きを持つ 「SGLT2阻害薬」が登場しました。インスリンの作用に依存しなくても、ある程度血糖値を下げられるのですが、排せつされる尿量が大量になるので十分な 水分の補給が必須になります。このため、高齢の患者さんへの投与は望ましくありません。
 経口血糖降下薬は、前述したほかにもあり、組み合わせは多様です。複数の血糖降下薬の相互の作用への配慮も重要です。

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 次回は、運動療法の取り組み方や目標などについてお話いたします。

みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、引き続き糖尿病治療についてお話くださいます。
6月号より