血圧など"適正な値"で健康寿命を延ばす

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、血圧などの"適切な値"についてお話くださいます。
血圧など"適正な値"で健康寿命を延ばす
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 これまで、健康寿命を延長させるためには、血圧やコレステロール、中性脂肪、血糖などを、できるだけ早いうちから適正に保つことが重要と繰り返してまいりました。今回は、この〝適正な値"に関するお話です。

新たに「臨床検査の基準範囲」

去る2014年4月に、日本人間ドック学会は健康保険組合連合会と共同で、大規模調査の結果をもとに設定した「臨床検査の基準範囲」を公表しました。コ レステロールの値など、これまでの基準より高い値が公表されたため、社会的に大きな反響を呼びました。患者さんによっては、コレステロールなど一部の検査 項目で基準が緩くなったのではないか、そのため薬物治療は必要ではなくなったと誤解される方まで現れてしまいました。これは、発表の際、「基準範囲」と 「臨床判断値」に関しての説明が不十分であったため、医療現場でも混乱が生じて、患者さんにご納得いただける説明ができなかったためではないかと思いま す。これから簡単に説明いたします。用語は少し難しいですが、理屈は単純ですので、読み進んでいただければ幸いです。

病気ごとに異なる「臨床判断値」

「基準範囲」とは、WHO(世界保健機関)の定義によると「健康人の検査値の幅」です。これは、いわゆる健康人の95%が入る検査の範囲であり、病気に 関するリスクを示しているものではないのです。したがって、この基準範囲にあるから健康であるとか、範囲外であるから病気であるとかを判断する基準ではな いのです。日本人間ドック学会が発表したのは、この「基準範囲」です。
一方、「臨床判断値」とは、一般の医療機関で診断や治療の基準として用いられている値です。「臨床判断値」には、診断閾値(現在の病気の有無を判断する 値)、治療閾値(治療を開始するか保留するかを判断する値)、予防医学的閾値(疾患の発症を抑えるために一定の対応が要求される値)が含まれています。 「臨床判断値」は、高血圧や動脈硬化、糖尿病などの各学会の治療ガイドラインや疫学研究によって定められ、改訂されています。
ただし、「臨床判断値」にも注意すべき点があります。それは、「臨床判断値」が示されている疾患が少ないことです。あまり発生頻度の多くない疾患では、 ほとんど「臨床判断値」は提示されていません。また、同一の疾患に関する「臨床判断値」が、関連する学会ごとに微妙に異なる場合もあり、混乱の一因となっ ていました。現在、各学会が協議して、矛盾のない「臨床判断値」を作成しつつあります。

オーダーメイド治療への進化
 もう一つ、重要なことがあります。それは、高血 圧症や糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などの慢性疾患の治療が、〝個人別の治療(オーダーメイド治療)"に進化していることです。オーダーメイド治療で は、まず、個別の患者さんが抱えている〝複数のリスク"を分析します。そして「臨床判断値」を踏まえて、適正な治療目標値を設定します。さらに、病気の状 態に応じて、適切な治療法、治療薬を選択していきます。
 「臨床判断値」とオーダーメイド治療の関係を「ヨーロッパ高血圧ガイドライン2013」を例にとって説明しま す。ヨーロッパ高血圧ガイドラインは、ヨーロッパの高血圧学会と心臓病学会が共同で発表した高血圧を治療するための指針です。このガイドラインの2007 年版では、低~中等度リスクの患者さんの血圧治療の目標値を140/90、心臓血管病(狭心症、心筋梗塞)、糖尿病、腎臓病などを持つ高リスクの患者さん の血圧治療目標値は130/80未満とされていました。ところが2013年版では、一部の高齢者を除き、患者さんの持っているリスクとは関係なく 140/90未満が治療の目標値として統一されました。2013年版の血圧の治療目標値は以前より緩くて、血圧は高くても良いとなったのでしょうか。決し てそうではありません。2013年版では、血圧の異常
(医療機関と家庭での血圧値の異常、昼と夜の血圧の異常、24時間血圧測定による血圧パターン)、合併する疾患の数(肥満、血糖異常、脂質異常、心疾患、 尿酸値など)、年齢、男女、妊娠の有無、その他の条件が細かく記載され、それぞれの状態に対して、推奨される降圧薬と使用すべきでない降圧薬が指示されて います。そして、その指示の医学的根拠の信頼度がABCに分類されています。また、指示の推奨される強さがⅠからⅢと細かく表示されています。血圧 140/90(臨床判断値)は、設定の上限の値として大切ですが、ガイドラインに示された情報をもとに、患者さん一人一人に最も適した降圧目標値を設定し て、治療を組み立てていくことが、オーダーメイド治療の一つの形と考えてよいのではないでしょうか。
健康診断の結果を適切に判断して、疾病の発症を予防することが大切です。「臨床判断値」の大切さをご理解いただき、健康寿命を延ばしてください。

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次回は、高血圧症の診断と治療についてお話いたします。
8月号より