高血圧症の診断~最も頻度の高い生活習慣病

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、高血圧症の診断についてお話くださいます。
高血圧症の診断~最も頻度の高い生活習慣病
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 
 今月号では、最近の「高血圧症」の診断と治療に関連する話題についてお話いたします。8月号で「基準範囲」と「臨床判断値」のお話をいたしました。高血圧の診断・治療は「臨床判断値」に基づいて組み立てられていますので、ぜひ8月号をご一読ください。

脳卒中・心疾患・腎臓病に悪影響

 高血圧症は、現在、約4300万人の患者さんの存在が推測されています。これは、最も頻度の高い生活習慣病です。そして、脳卒中、心疾患(心肥大、心不 全、狭心症や心筋梗塞)、腎臓病に対して強い悪影響を及ぼす危険因子です。これらの合併症予防のためにも、血圧管理は大切です。そして、最も重要なポイン トは、適切な診断と治療方針に基づいた治療により大部分の高血圧症は管理が可能であることです。今月のお話は、日本高血圧学会が作成している"高血圧治療 ガイドライン2014"に基づいてすすめてまいりますので、ご判断のお役に立てれば幸いです。

高血圧症が疑われる測定値は

 初めて高血圧が疑われるのは、健康診断や診察室が多いと思います。診察室の血圧測定では、少なくとも2回以上、日にちを変えて測定しても、140/90 以上を示した場合に、高血圧症と診断されます。ただし、現在は、診察室外血圧測定の血圧値が重視されています。診察室以外の血圧測定には、家庭血圧測定と 24時間血圧測定があり、診察室血圧と高血圧の診断基準が異なります。家庭血圧測定は、上腕で測定する自動血圧計で行います。手首や指での血圧測定値は、 ばらつくことがあり、推奨されてはいません。朝起床後1時間以内、排尿後、朝の内服前、朝食前、座位1~2分安静後に測定します。2回測定して、その平均 をとります。夜は就寝前1時間に測定します。しかし、この時間帯は入浴後、飲酒後の状態が多く、朝に比べて低いことが多いのです。欧米では、夕食前の測定 が一般的ですので、時々、夕食前に測定することも有用だと思います。家庭血圧では135/85以上が高血圧と診断されます。
 白衣高血圧など診断は4つに分類

 高血圧の診断は診察室血圧と診察室外血圧によって、正常血圧、白衣高血圧、仮面高血圧、持続高血圧に分類されます。白衣高血圧とは、診察室で測定した血 圧が高血圧であっても、診察室外血圧が正常範囲内の血圧を示す状態です。白衣高血圧は、原則として降圧薬の内服は不要とされています。しかし、診察時のみ ならず、職場や日常のストレスでも血圧が上昇する場合には、朝夜の家庭血圧が正常範囲内であっても治療が必要になります。

 また、家庭血圧が135/85以上でも、診察室血圧が140/90未満の場合が仮面高血圧です。この場合も必要 な治療が行われないまま経過することになってしまいます。そこで、診察室血圧と家庭血圧の評価が異なる場合には、24時間自由行動下血圧測定が推奨されて います。これは、自動血圧計を上腕に装着して、昼間は30分間隔で、夜は1時間間隔で自動的に血圧を測定・記録する検査です。昼間のストレスによる血圧の 変化以外に、夜間から早朝にかけての血圧の変化が測定でき、高血圧の治療には極めて有用です。24時間自由行動下血圧値の平均が130/80以上の場合、 高血圧として対処されます。高血圧の合併がない場合、自由行動下の昼間の血圧は135/85未満、夜間血圧は120/70未満と、正常では夜間の血圧が低 い値を取ります。ところが、高血圧症の患者さんでは夜間の血圧が高いまま、早朝の血圧も高い場合や、夜間の血圧は正常範囲内でも、早朝に急激に血圧が上昇 する場合があります。このいずれの場合も、心臓血管病の危険因子となります。そして、これらの場合、仮に診察室血圧や、24時間血圧の平均が正常範囲内で あっても、心血管死亡のリスクは増加しているとの報告があります。これらの分析は、24時間自由行動下血圧測定でのみ可能です。

診察室血圧における治療目標

 診察室血圧における高血圧治療の目標を整理してみます。非高齢者(若年、中年65歳未満)では140/90未満。前期高齢者(65歳以上75歳未満)で は140/90未満、後期高齢者(75歳以上)では150/90未満です。糖尿病を合併した場合の降圧目標は130/80未満です。慢性腎臓病を合併して いて尿蛋白が陰性の場合は140/90未満、尿蛋白陽性の場合は130/80未満です。心疾患を合併している高血圧の治療目標は140/90未満ですが、 リスクの高い冠動脈疾患で冠動脈の狭さくがない場合は、可能であれば130/80を目指すことが推奨されています。脳卒中合併高血圧の慢性期では 140/90未満、ただし、ラクナ梗塞(15ミリ未満の小さな脳梗塞)、脳出血、血栓治療薬治療中の脳卒中では、可能であれば130/80を目指すとされ ています。

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 次回は、高血圧症の診断と治療についてお話いたします。
9月号より