治療を受けても血圧コントロールがつきにくい高血圧症について

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。うめつLS内科クリニックの梅津啓孝先生が、引き続き高血圧症の治療についてお話くださいます。
治療を受けても血圧コントロールがつきにくい高血圧症について
うめつLS内科クリニック
院長

梅津 啓孝 先生
1982(昭和57)年に福島県立医科 大学を卒業。同大大学院卒業時、医学博士号取得。済生会福島総合病院内科科長、医療法人立谷病院副院長、公立藤田総合病院内科科長などを経て2005(平 成17)年、福島市にうめつLS内科クリニックを開院。日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内科学会総合内科専門医。
 

 これまで、体の状態に合わせた血圧コントロールの目標値、高血圧症の治療薬についてお話してまいりました。今月号では、治療を開始したものの、血圧がなかなか目標値に到達しない高血圧症についてお話いたします。
降圧薬3種類以上でも下がらない
 10月号でお話したように、高血圧の治療薬(降圧薬)の作用の仕組みは様々です。これらの降圧薬を3種類以上用いても血圧が目標値まで下がらない高血圧を「治療抵抗性高血圧症」と呼んでいます。ただし、血圧が下がりにくい高血圧が、全て治療抵抗性高血圧症というわけではありません。本来は血圧が目標血圧に達しているにも関わらず、種々の原因で外来での血圧測定値が高値を示す場合があります。例えば、外来にあわてて駆け込んで、安静座位が守れない状態で測定した場合や、上腕の太さに比べて小さいサイズのマンシェット(加圧するためのベルト)を使用した場合など。そして、最も重要なのが、内服が医師の指示通りに守られていない場合です。内服の指示が複雑な場合には、配合剤(2種類の降圧薬が一つの錠剤に含まれている)を利用するなど、処方の簡略化について主治医と相談されるようお勧めいたします。「白衣高血圧」も有名で、持続性の高血圧よりは経過が良好と言われていますが、血圧の上昇が医師の前でだけ起こっているのか、生活の色々な局面でも起こっているのかを判断する必要があります。家庭血圧測定や自由行動下血圧測定(24時間血圧測定)が有用です。 
特定の原因で起こる二次性高血圧
 高血圧症患者さんの大部分は、「本態性高血圧」と言われています。しかし、高血圧の10%以上はある特定の原因によって引き起こされている高血圧で、「二次性高血圧」と呼ばれています。二次性高血圧では、重症の高血圧や発症が急激な高血圧、若年発症の高血圧などを認めることが多いのですが、適切な診断と治療によって良好な血圧のコントロールが得られることも少なくありません。高血圧が治って、内服が不必要になる場合もあります。二次性高血圧の原因は多数あります。いくつかの主な原因について説明いたします。  まず、第一にご注意いただきたいのが「薬剤誘発性高血圧」です。これは、痛み止めとして使用する非ステロイド性抗炎症薬や、肝臓疾患の治療などに用いられる漢方薬の「甘草」、経口避妊薬などを内服しているために誘発される高血圧です。特に甘草は、市販の漢方薬やサプリメントにも含まれることが多く、体の中にナトリウムや水をため込む一方、カリウムは低下させてしまい、血圧の上昇を招くため、要注意です。サプリメントを服用する場合には、医師や薬剤師とご相談ください。
睡眠時無呼吸が最も多い要因
 睡眠時無呼吸は、治療抵抗性二次性高血圧症を引き起こす最も多い要因です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、夜間睡眠中の吸気時(息を吸う時)に、のどの奥が閉塞して、一時的に呼吸が止まってしまう疾患です。この結果、血液中の酸素濃度の低下が繰り返されます。昼間の眠気に加えて、夜間に何回もトイレに起きる場合は要注意です。閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、心臓へ負担がかかるため、夜間の心臓発作による突然死や狭心症、不整脈、心不全などの循環器疾患の危険因子となっています。また、無症候性脳梗塞(自覚症状のない脳梗塞)の危険因子でもあります。この閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、治療抵抗性高血圧のうちでも、特に朝の血圧が高く治療が難しい高血圧が多いので、治療に際しては、家庭での朝の血圧測定が重要です。朝、起床後の血圧が高い方は、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けてください。検査には、クリニックで簡単な測定機器を貸し出してもらい、家庭で測定できる簡便な検査と、専門医療機関に一晩入院して行う精密な検査があります。まず、簡便な検査を受けてみることをお勧めします。

比較的頻度が高い腎実質性高血圧

 二次性高血圧のなかで比較的頻度が高いのが「腎実質性高血圧」です。腎臓は、血圧の調整や体内の塩分・水分のバランスを調節する大切な臓器です。この腎臓が障害されると、体にナトリウムがため込まれて血圧が上昇します。この腎臓の組織そのものが壊されてしまう腎実質性高血圧では、塩分の制限がとても重要です。腎臓に関連する高血圧で、もう一つ「腎血管性高血圧」があります。こちらは、腎臓へ血液を供給する血管である「腎動脈」が狭くなった場合や閉塞した場合に起こります。腎実質性高血圧と腎血管性高血圧では、治療薬の選択や投与量が異なるので、高血圧専門医、腎臓専門医で治療を受けてください。


 血圧を上昇させるホルモンが過剰に産生されるために引き起こされる高血圧の一つに「原発性アルドステロン症」があります。これは「アルドステロン」という血圧を上昇させる働きのあるホルモンが体の中で増えてしまい、高血圧を来す疾患です。アルドステロンは副腎という臓器で作られます。この副腎に腫瘍ができて、アルドステロンを過剰に産生するために起こる高血圧は、このアルドステロン産生腫瘍を摘出することで、高血圧が治ってしまうことがあります。ただし、治るのは高血圧発症から時間が経過しておらず、体の各臓器へも悪影響が及んでいない場合に限られますので、早期発見、早期治療が大切です。

生活習慣の評価と是正は重要
 治療抵抗性高血圧症の治療においても、生活習慣の評価と是正は重要です。特に塩分制限とBMIの適正化に努めてください。降圧薬は多剤の併用が原則となります。10月号でお話した、カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬)、アンギオテンシ ン受容体拮抗薬(ARB)またはアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、利尿薬の併用が主体となります。個々の患者さんの血圧の状態に応じて、降圧薬の投与量や投与回数を調整します。血圧のコントロールが不十分な場合には、α遮断薬、β遮断薬の併用も行われます。  高血圧の治療は、単純に降圧薬を内服して血圧を下げるだけではありません。体の臓器を保護するために、長期にわたって患者さんと医療者が協力していくことが、健康寿命の維持につながるのです。

11月号より