義歯で肺炎が減少する

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。塩田博文歯科(棚倉町)の塩田博文先生が担当する歯の健康シリーズのスタートです。
義歯で肺炎が減少する
歯科医師 塩田 博文先生
1980年に神奈川歯科大学を卒業。同年、故郷の棚倉町に塩田博文歯科を開く。95~96年、日本歯科医師会生涯研修セミナー「無歯顎の臨床」講師。2002年より塩田義塾塾長。「実際的総義歯づくり」(わかば出版)、「歯が痛くない時読む本」(砂書房)など著書多数。
 

 縁あって特養(特別養護老人ホーム)に頻繁に行く様になりました。その中で、義歯を入れていなくて食事をされている方が多いことに驚きました。
 施設で入れ歯を預かる話は本当
 入所時に義歯を施設で預かってしまうという話は本当なのだと感じました。介護する中でいろいろ事情があり、必ずしも施設を責められないのですが、とにかく歯科医師としてはいかがなものかと思ったりもします。
 さて、7~8名治療させていただきましたが、その中で何人かの患者さんは義歯の調子が良くなったこともあって、ありがたいことに次から次と依頼されるようになっております。
 先日、少し認知症のある患者さんを診させていただいた時、今まで使えなかった(使わなかった)義歯をどんな調子なのか診るためにお口の中へ入れさせていただこうとした時、怒って「大きくてダメ!!」と拒絶されました。

 このことで、やや私は構えはしましたが、案外この方、認知症の度合いは軽いかもしれないので、うまくいくかもと思いました。しかし、なかなかこの様な患者さんは型を採らせてくれないことも結構あります。
 その昔、「殺される!!」と言ってトレー(型を採るための枠)をすごい力で外されたこともありました。実は、私の母も印象が採れず新しい義歯を作れなかったという苦い経験をしました。
 前述の患者さんは翌日、印象を採るべく慎重にというか、しばらく世間話をした後、まずはトレーをお口の中に入れました。が、やはり拒絶されました。「型が採れないと入れ歯は作れないんですョ...」と、介護士の方が話され、そして「キュウリも食べたいですよネ。少し我慢していただけないですか、痛くはないですからネ。頑張りましょう」と、優しく語りかけてくださいました。そうしましたら納得されて、うまく型が採れたのでした。
 さて、本題です。タイトルの様に義歯を入れて食事をされると肺炎が減少するということを、恥ずかしながら歯科医師である私が認識しておりませんでした。
顎の位置の安定が誤嚥を防ぐ
 口腔清掃、つまりお口の中を綺麗にすれば肺炎は少なくなるとだけしか思っておりませんでした。しかしながら顎位、つまり顎の位置が保持安定することによって、嚥下(えんげ)、いわゆる飲み込む時に誤嚥しにくくなるということもある様です。
 こういった当たり前のことを歯科医師である私が不明であることを恥じ、深く反省もしております。患者さんはもちろんですが、その方のご家族や介護に関わる方々が認識し、理解されると義歯の意味というか価値を再認識されると思います。
 義歯は咀嚼(そしゃく)するため、つまり噛んで食べるためだけでなく、誤嚥を防止するために役立ち、それが肺炎防止の一役を担うということを声を大にして話す歯科医師になろうと、強く思っております。
 そして、多くの関係者が新たな視点を持たれれば、患者さんは救われることになると思います。義歯は肺炎防止の一役を担っているのです。
 ここで終わろうとしましたが、介護は多くの方が大変と思っていらっしゃいます。自宅で介護するのは限界がある場合、介護施設にお願いすることになります。
食事時間の短縮が介護では重要
 介護は、介護をした者でなければわからないというのは本当で、経験するとその大変さに気付きます。少し大げさになりますが、家庭が崩壊しかねないほど家族の負担は想像以上のものがあります。
 綾戸智恵さんはエッセーの中でお母さんの介護の話を書かれていました。痩せていらっしゃる綾戸さんにとっては、力仕事は大変と思っておりましたが、実はもっと大変なのは食事で、その時間は2時間ぐらいかかり、3回ですと6時間ということになります。さらに食事の支度が2時間ぐらいかかるとすれば8時間ということに。自分しか母を面倒見るのはいないのだという使命感を持って、仕事も中断されたとのことです。
 介護施設においても、この時間が短縮されれば、もっと質の高い介護サービスを提供できるのではないかと思います。人を増やすことが経営的に難しいとすれば、この時間短縮が入所者にとってもありがたいことで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を満たされるのではないでしょうか。
 義歯が使える様になって食事が美味しくなるばかりか、そのスピードはすごいものもあって、3分の1になった例は結構あるようです。
 
1月号より