要介護になる原因の53%は?

 
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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。塩田博文歯科(棚倉町)の塩田博文先生が担当する歯の健康シリーズです。
要介護になる原因の53%は?
歯科医師 塩田 博文先生
1980年に神奈川歯科大学を卒業。同年、故郷の棚倉町に塩田博文歯科を開く。95~96年、日本歯科医師会生涯研修セミナー「無歯顎の臨床」講師。2002年より塩田義塾塾長。「実際的総義歯づくり」(わかば出版)、「歯が痛くない時読む本」(砂書房)など著書多数。
 
 


 1993(平成5)年に出版させていただいた本のタイトルが「歯が痛くない時読む本」です。 

 この本の「まえがき」と「あとがき」を読み直しておりましたら、あの頃の情熱を思い出すことができ、少し感動いたしました。歯科医師になり13年目のものです。  その「まえがき」と「あとがき」を今回は紹介させていただきます。

 要介護になる要因は?

 その原因の第1位は脳血管疾患で、次いで認知症、骨折、転倒、関節疾患の順とされています。  

 前記の理由で歯の手入れができにくくなり、歯が不健康になるという考え方はありましたが、近年の研究では、逆の順序で認知症や転倒で要介護になっていくという解釈がなされるようになりました。

 歯の健康と認知症や転倒との関係

 ある県で歯の数と義歯使用の有無を調査したら、自分の歯が20本以上ある方々の回答したものより、自分の歯がほとんど無く、かつ義歯を使用していないと回答した方は1・85倍も認知症のリスクが高いことが明らかになったとされています。また、転倒との関係も深く、この数値は2.50倍高いという報告がありました。

 「咬合(こうごう)支持」という専門用語があります。これは、上下の歯で噛み合わせが維持されることです。このことによって重心動揺も少なくなり、直立姿勢が安定することが証明されています。したがって歯が無くなったら義歯を入れてバランスを取ることが、転倒防止にも役立つことになります。単に食べるための義歯ではないということです。  

 もちろん認知症を防止・回避するうえでも有効と考えられます。

 要介護の原因

 タイトルの「要介護になる原因の53%は?」という話になります。介護が必要となった主な原因は認知症、転倒、骨折等いろいろあるわけですが、歯の健康に関連するものを合計すると53%になるという報告があります。  

 超高齢社会の日本において、健康寿命を延ばすということは大きな課題です。それには歯の健康が大切で、それを多くの方に知っていただき、歯を守ることの大切さを認識することはもちろんですが、不幸にして歯を失っても、義歯を入れることによって健康寿命が延びることもご理解いただきたいのです。

 歯はやはり大切

 実は、歯科医師である私も歯が認知症や転倒防止に深く関係していることを知りませんでした。介護に関係されている方々は、日常の仕事のなかでその関係性をなんとなく感じられていたかと思います。  

 歯を守る、あるいは義歯を入れるということは、単に食事をうまくとれるということだけではないことを多くの方々に知っていただき、お口の健康がQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を維持するうえで大切ということを理解していただきたいと思っております。

 長生きして良かった!

 「高齢化対策」なる言葉をよく耳にします。私はその度に高齢化が「困ったこと」として捉えられている感じがしてなりません。どうも高齢社会は「暗くて困った問題の多い社会」と捉えている風潮があるようですが、これは高齢者にしてみれば肩身の狭いことです。  

 単純に「長生きすることは素晴らしいこと」と捉えられない社会のほうが問題で、なんとも寂しい思いです。  

 長生きすることが本当の意味で幸せなことだという社会にしなくてはいけないはずです。そのためには、いろいろな方面で配慮のある社会づくりをしなくてはなりません。  

 私たち歯科医師にできることは、おいしく食べて元気になり、長寿を喜ぶ人生を楽しめるようにしてあげることかもしれません。我々も頑張って明るい高齢社会のお手伝いをしたいものです。  

 なお、山本龍生先生(神奈川歯科大教授)の受け売りの内容ばかりですが、私たち一般の歯科医師にも介護が必要になる原因に歯が大きく関係していることを教えていただき、感謝申し上げます。

参考文献  山本龍生 超高齢社会で知っておきたいこの数字②  The Quintessence Vol.33 No.1 1/2014 2370~2371

月号より