脳卒中について。その10

 

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 みなさんの笑顔と元気をサポートする「健康ジャーナル」。公立藤田総合病院(国見町)副院長で脳神経外科医の佐藤晶宏先生のお話です。
脳卒中について。その10
公立藤田総合病院
佐藤昌宏先生
福島県立医科大学医学部大学院卒、医学博士号を取得。同大学附属病院から総合南東北病院、福島赤十字病院、原町市立病院等にて勤務し1996(平成8)年4月から公立藤田総合病院脳神経外科、2008年4月より同病院副院長。専門は脳血管障害の診断と外科治療。日本脳神経外科学会専門医・指導医、福島県立医科大学医学部臨床教授。
 
 

      

 前回、脳卒中の予防3で述べたメタボリックシンドロームについて、今回、詳しくお話します。

 1.メタボリックシンドロームって何?(図1)

 腹囲が男性では85㎝、女性では90㎝以上ある、つまりリンゴ型内臓脂肪が蓄積している人で、さらに糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)のうち二つ以上がある場合をメタボリックシンドロームと呼びます。単に腹囲が大きい人は言いません。脂質異常症、高血圧、糖尿病のそれぞれも単独で動脈硬化の危険因子になりますが、これらの危険因子が重なれば動脈硬化がさらに強くなり、動脈硬化性病変が原因となる脳卒中や心臓病になる確率が高くなります。心臓病と脳卒中を合わせると日本人の死因の3分の1になります。
 では、なぜ腹囲が男性で85㎝、女性では90㎝となったのでしょうか。それは、内臓脂肪面積が100㎠を超えると高血糖、脂質異常症、高血圧の合併率が高くなるためです。正確に内臓脂肪面積を測定するにはCT検査を行いますが、いつでもどこでも簡単に行えるものではないため、ウエスト周囲径がスクリーニングとして採用されました。内臓脂肪面積100㎠に相当する腹囲が男性85㎝、女性90㎝となりました。

 2.メタボリックシンドロームと 関連する病気(図2)

 まず肥満、特に内臓脂肪型肥満になると高血圧、糖尿病、脂質異常症を引き起こしてメタボリックシンドロームになります。すると、さまざまな生活習慣病の原因となります。また、メタボリックシンドロームにより引き起こされるのが糖尿病です。内臓脂肪が増えると糖の代謝異常が引き起こされて糖尿病を発症する危険が高まります。日本人の高血圧の最大の原因は食塩摂取過剰ですが、若年・中年の高血圧の原因の一つに肥満が挙げられます。その他、飲酒、運動不足が原因となります。喫煙と並び高血圧は生活習慣病の最大の危険因子です。また、内臓脂肪が増加すると血中の中性脂肪の上昇とHDLコレステロール(善玉コレステロール)の低下をきたします。さらにHDLコレステロールの低下が動脈硬化の進行に拍車をかけます。動脈硬化が進行すると脳卒中の脳梗塞や脳出血の発症リスクが高まり、心臓では心臓を養っている冠動脈の狭小化が起こり、狭心症や心筋梗塞を起こしやすくなります。
 メタボリックシンドロームは血圧、血糖、脂質の値が治療を必要とするほど高値でなくても動脈硬化が進行しやすい状態となっています。これらの値が異常になる前に生活習慣改善を心掛けて動脈硬化進行のブレーキをかける、つまり生活習慣病を未然に防止しようというために取り入れられた概念です。

 3.メタボリックシンドロームの 危険性 

 メタボリックシンドロームの危険性は、自覚症状がほとんどない点にあります。本人はとても元気で病気のことなど頭になく、生活習慣が好ましくないことも認識していないことが多いです。しかし、この間も動脈硬化は進行しているのです。こうして気付かない、無関心でいるうちに動脈硬化が徐々に進行して、ある日突然、脳卒中や心臓発作を起こしてそのまま死の転帰を迎えたり、あるいは助かっても後遺症を残して寝たきりになったり、介護が必要な状態になることになります。また、糖尿病を発症すると動脈硬化だけではなく、腎臓障害、目の網膜症、しびれなどの神経障害等を引き起こし、人工透析が必要になったり、失明したり、足の壊死に陥ることになりかねません。さらに認知症の発症も高率に関係していると言われています。

4.メタボリックシンドロームを 防止する基本戦略

 メタボリックシンドロームを引き起こす大元の原因は内臓に蓄積した脂肪です。たまった内臓から放出される脂肪により、脂質異常や高血糖、高血圧をきたし、動脈硬化の危険が高まるのです。そして、この内臓脂肪蓄積を引き起こす最大の原因が、過食と運動不足であることは間違いありません。ですからメタボリックシンドロームを改善・予防するには過食と運動不足を解消して、内臓脂肪を減らすことが大切です。過食になりがちな食生活を改めて、積極的に体を動かし適度な運動を日常生活に取り入れる、この2点がメタボリックシンドローム改善の柱になります。
 さいわい内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、増加しやすいけれど減りやすいという特徴があります。食事量を減らすだけでも、運動量を増やすだけでも、比較的容易に減少していきますが、この二つを併せて行うのがより効果的です。メタボリックシンドロームの改善には、それほど厳しい目標設定は必要ありません。まずは現体重の5%を3~6か月かけて減量することを目標にしましょう。標準体重まで無理に減量することはありません。例えば、体重80㎏の人であれば5%の4㎏を3~6か月で減量すればいいのですから、1か月に1㎏減らせば十分です。それだけでも血圧、血糖、脂質の値や、アディポサイトカインの分泌の改善が見込まれます。それが達成できれば、今よりもずっと自信がついているはずです。その時点で次の目標を設定し、徐々に血圧・血糖・血清脂質を改善していきましょう。

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 次回はもし、脳卒中になった後のリハビリテーションについてです。

月号より