「地元再開」に壁 避難解除後の商工業者、帰還見通せず二の足

(数字はいいね)  このエントリーをはてなブックマークに追加 

 東京電力福島第1原発事故で避難指示が出た12市町村の商工会に所属する事業者のうち、地元に戻って事業を再開した事業者は22%にとどまることが県商工会連合会の調査で分かった。帰還困難区域以外の区域で避難指示解除が相次ぐ中、国や県は、産業の再生は住民が古里に戻るための基盤になるとしてさまざまな支援策を設けているが、解除後の住民の帰還状況や将来的な経営が見通せないとして地元再開に踏み切れない事業者も多い。

 ◆◇◇奮起と不安

 「古里の復興に役立ちたいと奮起したけど、不安もある」。南相馬市小高区で理髪店を営む松本篤樹(とくじゅ)さん(77)は、避難してから願い続けてきた地元での店舗再開を今月下旬に控え、こうつぶやいた。再開後は比較的帰還意識の高い高齢者が客層の中心になると見込み、国の補助金を活用して店内を改装し、車椅子に対応できる椅子や可動式の洗髪台、スロープを整備している。

 再開後は息子と一緒に店に立ち、専門学校を出た孫も修業後に店に入る予定だ。しかし、店の周りの閑散とした景色を見るたび「5年もたてば避難先で行きつけの店もできる。ただでさえ帰還する人が少ないのに、どのくらい戻ってくれるか」。不安を拭えない。

 ◇◆◇「鶏と卵」

 県商工会連合会によると、12市町村の商工会の2747事業者のうち、地元で再開したのは604事業者(7月20日現在)と5分の1程度。避難指示解除の状況が異なるのでばらつきがあるが、昨年9月に避難指示が解除された楢葉町は1年近く経過しているものの事業を再開したのは全体の41.4%の104事業者にとどまる。

 業種別では、復興事業に直結する建設業やガソリンスタンドなどの地元再開が多いのに対し、サービス業や小売り業の再開は少ない。暮らしに必要な商工業の再開を望む住民と、帰還者が少なければと赤字を懸念する事業者とで「鶏と卵」の関係が生じている。

 ◇◇◆支援にも難題

 避難区域での事業再建に向けては、国や県などの多様な補助メニューが設けられている。一方、震災から5年以上が経過し、避難区域の事業者が既に避難先で事業を再開していたり、地元再開を選択しない事業者がいる中、県内商工業者からは「避難区域と並行して区域外の支援策ももっと重視すべきだ」との声も増えている。避難区域だけに支援の目を向けてしまうと、県内の産業全体を見たときに、ひずみが生じてしまう可能性がある。事業者を支援する側にも難題が課せられている。

 県は昨年10月、12市町村外の中小企業を中心にカバーする連絡協議会を設立。また、県商工会連合会は今年、避難区域外の事業者を対象にしたアンケートを初めて実施し、支援強化に向け分析を進めている。同連合会の担当者は、震災から5年半がたとうとする県内商工業の現状を「避難区域外の事業者は、十分な補償がないまま今に至る。区域外の事業者が抱える課題は深刻だ」と指摘する。

民友セレクション