「あまちゃん」の街...台風襲う 岩手・久慈市ルポ、胸が痛む光景

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久慈市の人気観光スポット「あまちゃんハウス」の泥をかき出すボランティア=4日午後5時ごろ、岩手県久慈市

 住宅や商店の外壁には腰や肩の高さまである泥の跡―。統計を始めた1951(昭和26)年以来、初めて東北の太平洋側に上陸した台風10号は東日本大震災で被災し、震災からの復興に歩む姿を描いたドラマ「あまちゃん」の舞台として人気を集めた岩手県久慈市に再度、苦難をもたらした。台風通過から間もなく1週間となる4日、甚大な浸水被害を受けた同市の三陸鉄道北リアス線久慈駅周辺を歩いた。

 「震災の時よりひどいよ」。商品の電化製品などを次々と店から運び出す30代の男性が汗を拭いながら話す。男性によると、久慈駅の北側を流れる久慈川から水があふれ出し、見る見るうちに街を「のみ込んでいった」という。

 「あまちゃん」をモチーフにした同駅前の人気観光スポット「あまちゃんハウス」も浸水し、展示されているドラマの衣装やジオラマを含め、備品が泥にまみれた。「久慈市の財産だったのに。全部が失われてしまった」。近くにいた男性(65)が悔しそうに言い、唇をかんだ。

 まさに震災時の津波で本県の浜通りでも見られた光景だった。久慈もまた津波被災に見舞われた街だ。もし復興に向かう本県がもう一度、このような被害に襲われたらと想像し、久慈の人々の受けたであろう衝撃に胸が痛くなった。

 「負けないよ」黙々復旧作業

 盛岡市から車で約2時間30分。岩手県久慈市に近づくにつれ、行き交う車が乾いた砂にまみれているのが目に見えて分かる。道路にたまった砂を車が巻き上げ、砂ぼこりが舞っている。

 三陸鉄道北リアス線久慈駅に到着し、氾濫した駅北側の久慈川に向かう。所々に流木が見えるものの、水面はうそのように穏やかに感じられた。しかし同市の教員笹川裕司さん(47)は「流木があちこちに落ちててね。初めて見た光景だったよ」と話し、すぐさま記者の感想を打ち消す。川に架かる三陸鉄道北リアス線の橋には巨大な流木が何本も積み重なっている。「これ(流木)で水がせき止められてあふれちゃったんだね」と笹川さん。「橋のそばにある河川敷のテニスコートもよく使っていたんだけどね」と川を見やった。

 同市で最も浸水した久慈駅北側の地域を通り掛かった。「この線まで川の水であふれたよ」。機械業の下嶽一雄さん(68)が指をさすその線の高さは約2メートル30。自宅兼事務所の1階部分が丸々漬かったという。台風が去り5日たつが「泥出しはまだまだかかりそうだ」と話し、殺菌作用があるとされる消石灰を地面にまいた。

 駅周辺約3キロを歩き終えた午後6時。泥にまみれたごみが積み上げられている駅周辺に「あまちゃん」の劇中歌「潮騒のメモリー」のオルゴールが響いていた。「久慈の人はね、これくらいじゃ負けないよ。くじけてらんないよ」。日が沈んでも住民らは黙々と復旧作業を続けている。ドラマ終盤、津波で被災したカフェを黙々と片付けるドラマの主人公の姿が重なった。

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