映画「怒り」...『信じる』ことを問う 李相日監督インタビュー

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「怒りの歯止めがあるとすれば愛情なのかも」と話す李監督

 数々の映画賞に輝いた「悪人」の李相日監督が、再び吉田修一さんの原作小説を実写化した映画「怒り」が現在公開中だ。豪華出演陣を迎え、複雑かつ濃密なミステリーと人間ドラマを描いた本作は、一つの殺人事件をめぐり、誰かを「信じる」ことを問う。キャンペーンで東北を訪れた李監督にインタビューした。

 殺人事件巡る『人間ドラマ』

 ―原作の印象は。
 「疑うことのたやすさ、信じることの難しさ、信じてしまうことのもろさ―など気づかされることが山ほどあった。その衝撃を生かし、ミステリーの緊張感と、本当の謎である人の心の弱さや闇とを両立させて描きたかった」

 ―脚本も執筆した。
 「直接的には関わりのない千葉、東京、沖縄の感情を巡る物語を、どう一つにまとめるかが課題だった。前半は、登場人物の生活のつながりを細かく配置し、後半はそれぞれの感情に沿って、三つのエピソードがより深く絡まるよう移行させていった」

 ―作品を見て「怒り」という言葉の意味を考えさせられた。監督はこのテーマをどうとらえたか。
 「怒りに至る過程には、恐れや不安があり、膨らんだ悪意や憎悪に取り込まれてしまった殺人犯がいる。そして自分に怒りを向ける者、自分の怒りを人に伝える難しさを痛感する者もいる。終わりのない怒りの歯止めがあるとすれば、それは愛情なのかもしれない」

 ―豪華出演陣がそろう。
 「俳優の新しい面が見たいという思いが前提にある。愛子役の宮崎あおいは特に振れ幅が大きい。俳優の資質と両極にある役だからこそ生まれるものがあり、それは実はその人が表に見せていない要素だったりする。それが愛子を演じる上で必要なものだと感じ、賭けた。父・洋平もなにか間違いを抱えながら生きているような男で、普段の渡辺謙とは全く違う。派手ではないが新境地だと思う」

 ―撮影中、印象的だったエピソードは。
 「沖縄編の広瀬すず、佐久本宝は、自分の経験を超えた感情にたどり着くまでに苦労していた。自分だけにならず、相手の呼吸を取り込むよう助言した」

 ―それぞれ徹底した役作りが必要だったと。
 「頭で理解するよりも道行きを体感してみるというか。バックパッカー役の森山未来は自主的に那覇を放浪したり、無人島に滞在したり。人混みと、誰もいないときの両方の孤独を体感し、感覚を研ぎ澄ませながらたどっていた」

 ―読者にメッセージを。
 「福島には目に見えない怒りを抱えている方も多いと思う。それは外部の者が想像する以上に解消が難しい。自分には映画を作ることしかできないが、この映画が示す言葉にできない『怒り』を、感覚としてとらえてもらえると思う」

 り・さんいる 1974(昭和49)年、新潟県生まれ。「青 chong」が2000年のぴあフィルムフェスティバルでグランプリなど4部門を受賞しデビュー。いわき市の常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)の誕生を描いた「フラガール」(06年)で日本アカデミー賞最優秀作品賞、監督賞をはじめ、国内の映画賞を独占。その他の監督作品に「悪人」(10年)、「許されざる者」(13年)など。

 【あらすじ】東京・八王子で夫婦殺人事件が起こる。現場に「怒」の血文字を残した犯人は顔を整形し、行方をくらませた。事件から1年後、千葉、東京、沖縄に素性の知れない3人の男が現れる。
 千葉の漁港で働く洋平(渡辺謙)は、家出していた娘・愛子(宮崎あおい)を連れ帰る。愛子は2カ月前から漁港で働き始めた田代(松山ケンイチ)と出会い、ひかれ合っていく。
 クラブで出会う男と一夜限りの関係を続けていた優馬(妻夫木聡)は、新宿で直人(綾野剛)と出会い、同居を始める。
 母と沖縄の離島に移り住んできた泉(広瀬すず)は、同級生辰哉(佐久本宝)と訪れた無人島で、バックパッカーの田中(森山未来)と遭遇する。

              ◇

 県内では郡山テアトル、フォーラム福島、イオンシネマ福島、ポレポレいわきで上映中。

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