片渕須直監督に聞く ロングランヒット!映画「この世界の片隅に」

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かたぶち・すなお 1960(昭和35)年、大阪府生まれ。大学在学中から宮崎駿監督作品「名探偵ホームズ」に脚本家として参加。テレビシリーズ「名犬ラッシー」(96年)で監督デビュー。その他の監督作に「マイマイ新子と千年の魔法」(2009年)、NHK復興支援ソング「花は咲く」のアニメ版(13年)など。

 戦時中の広島・呉を舞台に、主人公すずの日常を描いたアニメーション映画「この世界の片隅に」。昨年11月の封切りから、現在まで全国で上映が続くロングランヒットとなり、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞するなど高い評価も受けている。舞台あいさつのためフォーラム福島(福島市)を訪れた片渕須直監督に、製作の経緯などを聞いた。

 戦時中、すずさんと感じて

 ―こうの史代さんの同名漫画が原作。アニメ化のきっかけは。
 「こうのさんは『戦時中』とひとくくりにされる時代について踏み込んで調べ、新たな切り口で描いていると感じた。どんなふうに状況が変わっていき、どの時点から、すずさんに戦争が覆いかぶさってくるのかを丹念に追っている。尊敬できる仲間に出会えたような気持ちになったし、何よりすずさんがいとおしい存在だったことが決め手になった」

 ―6年かけて製作されたと聞く。
 「モノクロの原作をカラーで解像度の高い映像にするために何を足すべきか。できるだけ、すずさんの生活や周りの世界にうそがないように調べ直していった」

 ―具体的には。
 「原作の冒頭ですずさんが買い物に行く街は、原爆によって現在はない。にぎわっていたころはどんな店があり、どんな人がいて、何を買っていたのか―それを全て調べ、当時のたたずまいを再現した。その作業を全編でやっていった」

 ―登場人物たちの描写も細かい。
 「例えばすずさんの妹のバッグには花模様の刺しゅうがある。当時の女学生の絵日記を見ると、みんな刺しゅうされたバッグを肩から下げていて、当たり前にかわいいものが好きで、おしゃれをしたかったことが分かる。戦争中でも現代の当たり前が通用し、当時の人々がわれわれと他人ではなかったと実感した。それが大事だと思ったし、当時の人々の気持ちも表現したかった」

 ―全国でロングランヒットしている。
 「本作は見る人がすずさんの横にいるかのように、当時の暮らしを『体験』する映画。その『体験』が口コミで広まっているようだ。驚くほどシニアのお客さんが多いが、昭和20年を知らないわれわれが、知っている世代に『確かに当時はそうだった』と言ってもらえるものを作ることができた」

 ―読者にメッセージを。
 「年配の方にどんどん見てほしいし、若い世代に当時の記憶を伝える会話の糸口になったらうれしい。若い方にとっても、当時を体験するきっかけになる作品だと思う。なにより魅力的なすずさんを見てほしい」

 【あらすじ】1944(昭和19)年、18歳のすず(声・のん)は突然の縁談で軍港の街・呉へお嫁に行くことになる。配給物資が減っていくなか、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、ときには絵を描いて日々の暮らしを積み重ねていく。しかし、やがて呉は空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。そして、昭和20年の夏がやってくる。

 ◇県内ではフォーラム福島で上映中。