「海洋放出」に波紋 第1原発トリチウム水、増え続け処分に苦慮

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トリチウム水が保管されたタンク群を視察する小委員会の山本委員長(右から2人目)ら=15日午後、福島第1原発

 東京電力福島第1原発の地上タンクで保管が続く放射性トリチウムを含む水は増え続け、廃炉作業のリスク要因となっている。東電の川村隆会長が、トリチウムを含んだ水を海に放出する判断を「もうしている」と発言し波紋を広げたが、処分の在り方に苦慮する現実も改めて表面化。汚染水処理への道は険しく、遠い。

 ◆◇◇タンク群

 「これだけのタンクをメンテナンスするのは新たなリスクだ。早く何とかしなければ」。15日に第1原発を視察した、トリチウム水の処分方法を検討する経済産業省の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」。委員長の山本一良名古屋学芸大副学長は、敷地内に並ぶタンク群を見上げ、報道陣に語った。

 6日現在で約77万トン、タンク約600基の処理水が保管されている。事故後建屋内に流入する地下水が汚染水と混じり、それをALPS(多核種除去設備)で処理した水が増え続ける。

 地下水の流入量は、1~4号機建屋周囲の地盤を凍らせる「凍土遮水壁」などの効果もあり、ピーク時の5分の2の1日約160トン(6月暫定値)まで減った。

 トリチウムは水と性質が近く、62種類の放射性物質を除去できるALPSでも取り除くことが不可能。東電は今後2年分のタンク置き場を確保したが、水漏れのリスクは残ったままだ。

 ◇◆◇4~7年

 国の作業部会は、処分方法として〈1〉地層への注入〈2〉海洋放出〈3〉蒸発〈4〉水素に変化させて大気放出〈5〉セメントなどで固めて地下に埋設―の五つを挙げた。政府は昨年6月、水で薄めて海洋放出する方法が最も短期間に低コストで処分できるとの報告書をまとめた。それでも77万トンの水を流すには4~7年かかる試算だ。

 トリチウムは稼働中の国内原発でも希釈するなどして海洋放出されている。原子力規制委員会の田中俊一委員長(福島市出身)も海洋放出すべきとの考えだ。ただ県内漁業者の風評への懸念は強く、実現へのハードルは高い。

 トリチウム処理に関する小委は昨年9月に発足。処分を巡る風評被害などの影響を検討、関係者や消費者が納得できる対処方法を慎重に探っている。委員には「安全だから放出するという理屈だけでは風評被害を繰り返す」との思いもある。

 ◇◇◆反発招く

 議論が道半ばの中、川村氏の発言は漁業者らの反発を招いた。東電は「最終的な方針を述べたものではない」と火消しに回ったが、県漁連や全国漁業協同組合連合会(全漁連)から抗議文が出される事態となった。15日の視察を終えた小委の山本委員長は「どんな発言をしたか詳しく把握していない」と明言を避けた。

 川村氏の発言は、自身が「福島が原点」と述べた東電の姿勢も問われている。差し迫った課題をどう解決するか。県民へのしっかりとした説明抜きには通れない。

 [トリチウム(三重水素)]弱いベータ線を出す放射性物質で水素の放射性同位体。自然界に存在し、核分裂などによって生成される。半減期は12.3年で、人体への影響は小さいとされる。薄めるなどして濃度基準を下回れば海洋放出が世界的に認められている。国が定める放出基準は1リットル当たり6万ベクレル。