かしまの一本松...未来へ 拾い集めた種を育てた『希望の苗木』

  このエントリーをはてなブックマークに追加 
「一本松のたくましい遺伝子が受け継がれた苗木たちだ」と話す荒さん

 東日本大震災の津波に耐え、枯死などの理由で昨年12月に伐採された南相馬市鹿島区南右田の「かしまの一本松」。その種から育った苗木が来年度、同地区の防災林の一角に植樹される。同市鹿島区の自宅で苗木を育てている「かしまの一本松を守る会」の荒新一郎さん(73)は「生ける一本松の火を絶やさない」と、苗木に愛情を注ぐ。

 一本松の保全に取り組んでいた2014(平成26)年10月、一本松の周辺で荒さんや守る会の会員たちが一本松から落ちた松ぼっくりを拾い集める姿があった。塩害などの影響で一本松の樹勢に衰えが見え始めた当時、一帯に防潮堤を整備する計画が持ち上がり、一本松はいずれなくなることが決定的だった。

 「一本松の移植を考えたが、あれほど大きな松はすぐ枯れてしまう。『いずれ一本松は姿を消す』。皆、頭にあったその言葉を口に出さず、一本松を守ろうと取り組んできた」。保全に尽力する一方で、"2世"を育てるための種集めだった。

 元勤務先の半導体製造会社で盆栽クラブに所属した荒さんは、一本松と同じクロマツなどの草木を育てた経験があった。15年4月、拾い集めた一本松の種約100粒を自宅庭の鉢にまいた。3カ月後、鉢から薄緑色をした10本の芽が出た。3本は枯れてしまったが、現在、大きいものでは高さ27センチになる苗木7本がたくましく育つ。

 苗木の植樹に向け、五賀和雄会長(78)や会員たちは、防災林整備を担当する県と協議を進めている。工期や植樹に適した季節を考慮し、植樹は2020年春ごろになりそうだ。一本松の苗木は荒さんの7本のほか、茨城県日立市の森林総合研究所材木育種センターで1本が育てられている。センターの苗木は接ぎ木をして本数を増やし、守る会に贈られる予定もある。

 一本松のあった南右田地区は津波で行政区の全70世帯が流失し、54人が犠牲になった。安全とされた高台にも津波が押し寄せ、命を落とした住民もいる。

 「苗木は、犠牲者の無念や教訓が詰まった一本松の遺伝子を受け継いでいる。きっと一本松のように、いろんな困難から未来の子どもたちを守ってくれる」。復興の象徴として被災者の心に寄り添った一本松。荒さんは苗木にその面影を重ね合わせた。