【人生100年時代】五木寛之さんに聞く(2) 病は治めるもの

  このエントリーをはてなブックマークに追加 
いつき・ひろゆき 1932(昭和7)年福岡県生まれ。早稲田大露文科中退後、作家デビュー。67年『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞、76年『青春の門 筑豊篇』他で吉川英治文学賞を受賞。『生きるヒント』『大河の一滴』『親鸞』など著書多数。近著に『眠れぬ夜のために』(新潮新書)など。

 ―今の時代で考えると、白秋はどの時期になるのでしょう。
 「50~70歳くらいで、一番大事な時期です。この年代はとにかく元気な人たちが多い。知り合いにも、定年退職後にスポーツクーペを買ったり、若い頃からの夢をかなえようとマーティンのギターを買ってバンドを組んだ人もいます。私は『再学問』と呼んでいますが、50歳を過ぎてからもう一度学ぶことはとても大事なことだと思います」

 ―再学問と言えば、五木さん自身、50代の時に京都の大学に入り、仏教を学ばれましたね。
 「そうですね。京都に移住して、学生たちと肩を並べて授業を受けました。黙って本を読むこともいいけれど、やっぱり大事なのは実際に対面して、人から教わることです。『面授』と言いますが、これが一番大事。今も時折、大学の課外講義などにマスクをかけてのぞきに行きますよ。ロシアの異端宗教の歴史とか、戦後流行歌の歴史とか、非常に興味深い。本で読んだって駄目なんです。みんなと一緒に教えを受けることが、すごく重要だと思います」

 ―還暦を過ぎ、「白秋」の真っただ中の私としても励まされます。昔は「初老」と言えば40歳を迎えた男性のことでした。今、40歳の人に「初老」と言ったらムッとされるでしょうね。時代は変わりました。
 「文芸や哲学、音楽、美術など、これまでの文化的業績のほとんどは、人生50年を前提として築き上げられたものだと思います。つまり50歳から100歳までの文化ではありません。私たちは人類史上、かつてない大転換期に直面しています」

 ―人生100年時代を生きる上で「心と体を整えることが大事」と指摘されています。どんなことを心掛けていますか。
 「ある年齢になれば、変わりつつある自分の『心』と『体』に向き合わざるを得ない時が来ます。それを認め、自分なりに整えていく必要があります。私は病は『治す』ものではなく『治める』ものだと考えます。これを『養生』と言います。養生の根本は、常に自分の体の声を聞くことです。体はさまざまな場面で信号を出したり、声を上げたりして、本人に語り掛けてきます。『ちょっと今しんどい』とか『風邪をひきかけている』とか、そういう声に聞く耳を持つことが大事です」

 ―五木さんはほとんど病院に行ったことがないと伺いましたが、もともと体は丈夫だったのですか。
 「そうではありません。いろいろ体の不調はありました。腰痛やうつ、ひどい片頭痛などさまざま経験してきましたが、その都度自分の体の声に耳を傾けてきました。体は自分の終生の友ですね。友情と愛着を持って接することです。健康法は実用的な感じがして好きではありませんが、養生という言葉には親愛の情というか、自分自身に『おいおい、しっかりしてくれよ』と呼び掛けているような、助け合いの意味合いが出てくる。楽しみながら好奇心を持って続けたほうがいい」

 ―呼吸法も工夫しているそうですね。
 「私のやり方は『逆腹式呼吸』。息をいっぱい吸い込む時は横隔膜に力を入れ、おなかをぐっとへこませる。吐く時はそれとは逆に、下腹部に力を入れて丹念に吐いていく。息を吸う時の5倍をかけて吐く。面白いからやっています。養生道楽ですね」

 ―心を落ち着かせるには、どのような方法があるのでしょう。
 「これまで深刻なうつ状態になったことが3度あります。1度目は40代後半で、とにかく毎日がつらくて仕方がない。苦し紛れに『喜びノート』を始めました。1日の終わりに『喜びを感じたこと』を手帳に書き出す。『いい天気だった』や『コーヒーがおいしかった』など、たわいのないことでいい。心の状態がだいぶ治まりました。次は60代の初め頃。その時は『喜び』ではしっくりこなかったので『悲しみ』を書き出しました。3度目の70代前半に訪れたうつは最も深刻でしたが、今度は『ありがたい』と感じたことを書き出して、危機を脱することができました。喜び、悲しみ、感謝。この三つはとても人間的な感情です。感情が揺り動くことで、自然治癒力も高まるのではないかと私は考えています」

 ―五木さんと言えば車好きで有名でしたが、運転をやめたそうですね。
 「65歳でやめました。その時は男をやめるような寂しさがありました。かつては五木レーシングというチームをつくって大会にも出場していたくらいです。でも『体からの声』が聞こえてきました。新幹線で浜松駅を通過する時です。昔は駅の表示がピタッと見えたのですが、60歳を過ぎたあたりから読めなくなってしまった。もう一つは、首都高での運転中です。横浜から東京へ向かう途中の下りカーブを、自分の決めたライン通りに滑るように降りていくのが一番の快感でした。でも、そのラインが微妙に狂うようになりました。『これはまずい』と思い、泣く泣く車の運転はやめました。人生100年時代には、そういう割り切りも必要なのだと思います」

 ―今の楽しみはどんなことですか。
 「体の調子がいいだけでうれしいですね。そのために食べるものに気を付け、適度な運動もします。いい状態をできるだけ長く続けることができれば一番幸せです。体重は朝と夕、1日2回量ります。何を食べるとどう変わるのかを知ることが面白い。1キロ以内で増減を繰り返していて、今も20代の体重を維持しています。体重は学生時代の頃と一緒ですよ」

 ―今も20代の体重と同じというのは驚きです。食べ物にはどのように気を付けていますか。
 「メインの食事は昼夜兼用で1食。あとはつまみ食いでごまかしています。大切なことは『食べる』という行為を意識し、よくかむこと。今の日本人は少々食べ過ぎていると思います」

>>>【人生100年時代】五木寛之さんに聞く(1) 50代から収穫期
>>>【人生100年時代】五木寛之さんに聞く(3) 次代へ心の相続