【人生100年時代】若宮正子さんに聞く 80代から「アプリ」開発

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わかみや・まさこ 1935(昭和10)年東京生まれ。東京教育大付高(現筑波大付高)卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)へ勤務。定年をきっかけにパソコンを始め、iPhoneアプリの開発など活躍。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事として、シニア世代へのデジタル機器普及にも尽力する。政府の「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーも務めた。神奈川県在住。

 80代でシニア向けのiPhoneアプリを開発し、話題となっている女性がいる。現役プログラマーの若宮正子さん(83)。アップルの世界開発者会議にも招かれ、ティム・クックCEO(最高経営責任者)から「最高齢プログラマー」と紹介されたこともある。「人生100年時代」の生き方を考える福島民友新聞社の識者インタビューでは、「好奇心が大事」という若宮さんのアクティブな人生論を語ってもらった。(聞き手・社長・編集主幹 五阿弥宏安)

 ―パソコンを学び始めたのは60歳ごろだそうですね。どんなきっかけがあったのですか。
 「定年退職を控える中、パソコン通信があれば家にいても友だちとおしゃべりできるということを聞いて興味を持ちました。自宅で母を介護する必要があったので、外にあまり出られなくても友だちとチャットができるのはいいと思いました。パソコン通信でシニアが交流する『メロウ倶楽部』に入会すると、トップページ画面に『人生、60歳を過ぎるとおもしろくなります』というメッセージが書かれていて、ワクワクが止まらなくなりました」

 ―さらに80代からプログラミングも学ばれています。きっかけは何だったのですか。
 「学ぼうと思ったのは81歳の時です。ある日IT会社を経営している友人に、シニア向けの面白いアプリがないとこぼすと『それなら自分で作ったらどうか』と言われ、その時自分が使っていたiPhoneのアプリを作ろうと思ったのがきっかけでした。『なければ私が作っちゃおう』と」

 『シニア目線』操作反映

 ―そして制作されたのがシニア用ゲームアプリ「hinadan(ひなだん)」でした。どんなアプリですか。
 「ひな祭りのひな壇に男雛(おびな)や女雛(めびな)を正しく配置するゲームです。日本の伝統文化をテーマにすれば、シニアに親しみやすいのではないかと思いました。画面がどんどん変わったり、激しい音が出るようなものではなく、シニアが苦手なスワイプ(画面に指で触れたまま横に滑らせる動作)をしなくてもタップだけで動かせるようにするなど、スマホを使い慣れていない人でも楽しめるよう工夫しました」

 CNNからメール

  ―「hinadan」は世界中で大きな反響がありました。
 「アプリを開発して間もなく、米国のCNNから『今から質問票を送るので2時間以内に返事してほしい』とメールが届きました。すぐに『グーグル翻訳』を使って質問票を日本語に変換し、日本語で書いた返事を今度は英語にして送ると、その30分後には世界中に配信されていました。あの日2時間以内に返信できていなければ、CNNのサイトに掲載されなかったかもしれませんね」

 ―それがきっかけで、アップルのティム・クックCEOから世界開発者会議に招待されることになったのですね。
 「アップルからメールをいただき、2017年6月の会議に招待されました。クックさんは『老いも若きも』のアプリ開発者として、オーストラリアの10歳の少年と私のことを紹介しました。クックさんと個人的にお話しする機会もあり、シニア世代には今のスマホが使いにくいと話すと、非常に熱心に聞いていただきました。とても紳士で、最後はハグをしていただきました」

 エクセルでアート

  ―「エクセルアート」というものを考案されたと聞いていますが、それはどういうものですか。
 「本来エクセルは表計算ソフトですが、エクセルのセル(マス目)を使って図柄や絵を描きます。シニア女性が楽しみながらエクセルに触れる方法として考えましたが、そのうち自分がはまってしまい、今ではエクセルアートでデザインしたカバンやうちわ、ブックカバーなどを作っています。エクセルアート以外にもアップルに招待された時に、自分で3D製図用ソフトで設計し、3Dプリンターのある工房で作ってもらった『世界にひとつだけのペンダント』を着けていきました」

 ―それはすごいですね。ところで、服はできるだけ赤を着るようになさっているそうですね。
 「ここぞという場面で赤を着るようにしています。明るい色を着たほうが元気に見えるし気持ちが明るくなる。日本のシニア層は中間色を選びがちですが、お年寄りこそ派手な服を着るべきだと思います。昨年秋に開かれた(天皇、皇后両陛下主催の)園遊会には、エクセルアートでデザインしたロングドレスを着て、アイロンビーズに基盤を埋め込みLED電球をぴかぴかと光らせたハンドバッグを持って出席しました。皇后さまが『光るんですね』とおっしゃって、何度も触って見ていただきました」

 1人で海外に行く

  ―海外にもよく旅行されるとお聞きしています。
 「40年前から年に1度の海外旅行を恒例としています。これまでに50カ国以上を訪れましたが、ほとんどが一人旅、それもパック旅行ではなく個人旅行です。昨年夏には、若いころにも訪れてとても良かったアイルランドに行ってきました。地域に密着した体験ができ、現地の人たちの営みを垣間見られ、触れ合えるのが、個人旅行ならではの醍醐味(だいごみ)だと思います」

 『居場所』自分で作る

  ―定年退職後、とりわけ男性の場合、仕事中心できたので何をしていいか分からないという人が多いように思います。若宮さんはどう考えますか。
 「退職後に居場所がないという声も多いそうですが、なければ自分で作ればいい。長年仕事に勤(いそ)しんできた人だからこそ、できることはたくさんあるはずです。ただ、昔偉かった人などにあることですが、ボランティアを始めてNPOの役員になりたいという人に理由を聞くと『退職したら名刺に肩書がなくなってしまったのでさみしい』と。その発想のほうがもっとさみしいと思います」

 ―今のシニア世代は知識や技術、体力もある人が少なくありません。シニアの力を社会に還元していく仕組み作りが大事です。それは超高齢社会の日本が世界に誇るモデルになると思います。
 「おっしゃる通りだと思います。ただ技術も日進月歩ですから、自分の脳みそもパソコンと同じように更新しないといけません。それが『学び直し』です。シニアの学び直しに必要なのは、理科と社会科だと思います。社会の産業構造が激しく変わり、茶の間にも台所にもインターネットが入ってくる時代、シニアが自立するのに重要な知識です」

 AIと競争は不要

  ―人工知能(AI)が発達していくと人間の仕事がなくなるのではと心配する声もあります。AI時代についてどう考えていますか。
 「AIと競争する必要はないと思っています。二人三脚でAIの得意なことはAIに頼み、人間が得意なことは人間がしていけばいい。例えば人間は直感することができますが、AIはデータベースにないことには弱い。人間には他者の痛みに共感する力もある。AIが進化するこれからの時代は『人間力』がますます問われるようになると思います」

 ―「もう私の人生あまりやることはない」と思っている人もいると思います。そういう人にどんな言葉を贈りますか。
 「人生で『もう遅い』ということはありません。もちろん、若い人のように器用でないし、頭の回転も速くはありません。でも、何ごとも、やらないよりやったほうがはるかにいい。年を取ると『何かを失った』とばかり言いがちだけれど、その分何かをゲットすればいい。ピアノでもマラソンでも水泳でも、新しいことにどんどん挑戦していけば、それはプラスにカウントできます。必要なのは『好奇心』を持つことです。大丈夫、好奇心は年を取りませんから」