【18歳選挙権・主権者教育の今】ワクワク育む投票箱 指導法を工夫
教壇近くに置かれた囲いのある記載台と銀色の投票箱、初めて見る本物の投票用紙を前に、生徒たちが目を輝かせた。南相馬市の鹿島中で行われた社会科の授業。3年後に有権者となる3年生約110人が、実際に投票用紙に名前を書き、ほかの人に見られないよう慎重に折りたたんで緊張した表情で1票を投じた。
授業を行った佐藤一彦講師(56)は、民間病院や企業への勤務を経て講師に就いた経歴の持ち主。「社会科で学ぶことは自分たちが生活する実社会にある。体験できる教材は多い」。市選管に掛け合って選挙道具を借りるなど準備を進め、授業では「投票用紙に間違って書いてしまったら、新しい投票用紙をもらえるか」など、クイズも交えて生徒の興味を引き付けた。
県内の小、中学校の授業では小学6年の社会科、中学3年の公民科で政治や選挙について学ぶ。しかし、18歳選挙権の導入を控えて生徒の一部が有権者となる高校での主権者教育が注目され、高校では教員らが試行錯誤しながら準備を進める一方、義務教育の現場では「まだ、あまり変化がない」(県教委)のが現状だ。
「本物の投票箱を見て、わくわくするだけでも主権者意識は育つ。段階に応じて指導法を工夫し、高校の主権者教育につなげることが重要」と県教委の担当者は指摘する。佐藤講師も「投票権を持つまでに、政治や選挙に興味を持たせる土壌を築くことが大切」と自身の授業の意義を説く。「今まで政治は遠いものだったけど、実際の投票箱を使うことで1票の重みを感じた」。本物の投票用紙で"投票"した仁木拓人さん(15)の胸には、主権者としての自覚が芽生え始めた。