【喜多方市長選ルポ】蔵のまち二分、冬の決戦 振興策で支持訴え

 
市役所前の選挙掲示板に見入る市民。銀世界の中で行われる舌戦の内容、行方を多くの市民が注視する

 28日投開票の喜多方市長選は中盤戦に入った。いずれも無所属の新人で、元市部長の菅野康裕(62)、元県議の遠藤忠一(70)の両候補が、蔵のまちを二分した激戦を繰り広げる。人口減や観光復興など山積する課題解決を誰に託すのか。ヒートアップする冬の決戦の最前線を追った。(敬称略)

 大雪に見舞われた23日、両候補の遊説カーが市内を駆け巡る。雪かきの手を休め、沿道で手を振る市民の多くは高齢者だ。市人口は、5市町村が合併した2006(平成18)年から約8千人減少。市内でも特に、合併前の旧町村部の人口減少が深刻だ。両候補は人口減対策、旧町村部の振興などの公約を前面に支持を訴える。

 「人口減をこのまま続けていくのか、抑制して右肩上がりにするのか。市の大きな役割だ」。菅野は告示日の約2週間前に出馬を決意した理由に人口減少への危機感を挙げ、声を張り上げる。市町村合併後の行政データの「見える化」などの公約には、市総合政策部長など行政の最前線で働いてきた自負がにじむ。

 「横綱に挑む選挙だが、小結が横綱を倒すときもある」。後援会長の遠藤朗(61)は構図を大相撲に例え、闘志をみなぎらせる。民進、共産、社民各党系の市議らが勝手連的に支援に回る。関柴町上高額の事務所では、オレンジ色のジャンパーに長靴姿のスタッフが慌ただしく出入りするが、この中に選挙のプロはいない。後援会長は「最後まで素人集団、市民党で戦い抜くだけだ」。草の根運動の先に勝機を見いだす。

 「政府の復興・創生期間は残り3年が勝負。国、県とパイプのある即戦力が必要だ」。マイクを握る遠藤の声に力がこもる。県議6期、議長も務めたが、無投票が5回続いたため「実戦」は23年ぶりだ。押切南の事務所の壁には現職閣僚や国会議員、県議のため書き、企業・団体からの推薦状が並ぶ。しかし、遠藤は「選挙の流れは分からない」と組織の引き締めに懸命だ。

 「オール市民」。パンフレットの文字が示すように、市内政財界から請われる形で出馬を決めた遠藤の陣営にとって、実戦は想定外だった。

 自民、公明両党の市議らを中心に選対幹部が支援企業、団体の票固めを急ぐ。選対本部長の佐藤富次郎(62)は「遠藤の知名度は高いが、油断はできない。政策と偽りのない人柄を訴えていきたい」と話す。

 菅野、遠藤両候補の舌戦を多くの市民は静かに見つめる。育休中の熱塩加納町の女性(34)は選挙掲示板を眺め「どちらが勝っても喜多方を子どもに優しいまちにしてほしい」と願った。