【福島県知事選・争点を問う】福島県産品に残る風評...県の力必要

 
たわわに実ったモモを見上げる野崎さん。「風評払拭には個人と行政が両輪で安全性を発信することが大事」と語る

 「風評払拭(ふっしょく)には信頼関係の構築が大事だ」。たわわに実った自慢のモモを見上げながら、福島市の野崎隆宏さん(51)=野崎果樹園園主=は、震災と原発事故後の風評被害との闘いを振り返る。事故直後は放射性物質への不安から、顧客からの注文が激減。家業に携わって30年ほどたつが、あれほど先が見えず、不安に駆られた経験はなかった。

 野崎さんはモモ、サクランボ、ブドウ、リンゴを栽培する果樹農家。宅配便の普及とともに、時間をかけて口コミで全国に顧客を増やしてきた。震災時は顧客から地震の被害を心配する電話もあったが、原発事故が起きると販売の案内状を送っても注文がなかった。モモの市場販売平均単価は平年の8分の1まで急落。「農家は毒を売っている」。そんなことも言われ、落胆と悔しさだけが残った。

 県産農産物の全国との価格差は震災前の水準に回復していない。県によると、県産モモの価格は震災前が44円(1キロ当たり)全国より安かったが、2011(平成23)年には184円まで価格差が広がった。17年には141円まで戻ったものの、開きはまだ残る。風評払拭に向け県は国内外でトップセールスを展開、特殊な冷却技術を用いた「CAコンテナ」を導入して海外での販路も拡大した。

 こうした県の施策もあり、県産農産物の輸出量(17年度)は過去最高を記録。一歩ずつ成果が表れる一方、タイでは消費者団体の反発を受け県産ヒラメのフェアが中止となるなど、県産品に対する理解は道半ばの状態だ。

 ■数字で示し信用

 「ただ安全だと言っても顧客には伝わらない。きちんと数字で示さないと信用されない」。野崎さんは原発事故後、顧客との信頼関係を構築するため果樹農家有志と「ふくしま土壌クラブ」を組織。畑の土壌の放射線量を測定してマップを作り、果実の安全性を発信してきた。地道な努力を続ける中、今では個人販売の顧客の9割程度が戻るまでに回復した。

 野崎さんは「個人と行政・組織が両輪となって県産農産物の安全性を発信することが大事」と感じている。特に、個人の力だけでは届かない海外への発信や県産品を不当な安値で仕入れて販売する「買いたたき」を防ぐには、国や県の力が必要だと強調する。「県全体で復興は進んでいるが、まだまだ完全ではない」。農家が待ち望む農業復興の実現には依然として長く、困難な道のりが続いている。