【復興の道標・作業員-1】身寄りなく尽きた命 顕在化する健康問題

 
県外から来た除染作業員の遺骨が安置されている真宗大谷派原町別院。引き取り手が現れるのを待っている=南相馬市原町区

 「医師が余命いくばくもないと言っている。亡くなったらどうすればいいのか」。2014(平成26)年5月、南相馬市にある病院の職員が市役所の社会福祉課を訪れ、入院患者について相談した。患者は60代の男性で、県外から来た除染作業員。家族はいなかった。

 重い病気を患っていた。数日後に亡くなり、市が火葬した。男性のわずかな所持金が葬儀に充てられたが、ほとんどの費用は行政が負担した。

 昨年2月、同課に今度は警察から連絡があった。県外から来ていた別の60代男性の除染作業員が、宿舎で亡くなった。脳の疾患と診断された。やはり家族はなく、市が火葬した。

 引き取り手がいない2人は「行旅(こうりょ)死亡人」扱いとなった。担当する市の女性職員(47)は「震災前、行旅死亡人は年に1人いるかいないかだった」と明かす。今後も増えることを見込んで市は本年度、行旅死亡人の火葬費用に関係する予算を2倍にした。

 熱中症対策など現場の環境改善が進む一方で、作業に直接起因しない病気を作業員が訴えるケースが相次いでいる。

 健康保険に未加入も

 「助けてください」。14年4月、南相馬市立総合病院の救急外来入り口近くに、ワゴン車が慌ただしく止まった。医師が車に乗り込むと、除染作業員が心肺停止状態だった。いったんは蘇生したが数日後に死亡した。免疫力が著しく低下した人がかかる病に侵されていた。

 同病院研修医の沢野豊明(25)は昨年、入院患者のうち、相双地方の外から来ている除染作業員34人の健康状態を調べた。全員男性で20~66歳。糖尿病を患う人が8人、高血圧が20人いて、それぞれ半数以上が未治療だった。

 また、脳卒中を発症した5人のうち2人は健康保険に加入していなかった。3人は除染に携わって1カ月以内の発症で、作業自体よりも生活習慣が原因となっている可能性が高い。

 沢野は「糖尿病を発症しているなど就業前の健診で健康状態が悪いと分かっていて、人手不足を背景に採用せざるを得ないケースがあると聞いた。独り身の人が多いことも、不健康の原因の一つだろう」と指摘する。もともと全国各地にあった低賃金労働者の健康問題が、除染や廃炉のため本県に大量に労働者が集まったために顕在化したとみている。

 医師が宿舎に出向き、適切な食事や運動を促すなどの健康啓発を行えば、その効果は期待できる。沢野は、行政が対策に乗り出そうとしないことがもどかしい。「健康状態の悪い人が多いと分かっていながら何もできないのは医師として悔しい。復興のため集まった人たちなのに」

 南相馬市原町区にある真宗大谷派原町別院。引き取り手が現れない除染作業員の遺骨の箱が本堂に並ぶ。「後の世代の身内が引き取りに来るかもしれない。30年でも、40年でも預かる」。寺の代表を務める男性は今後こうしたケースが増えることを視野に、遺骨を並べる棚を設置することにした。(文中敬称略)

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 県内で除染や廃炉作業に従事する作業員は3万人を超える。本県の復興には欠かせない存在だが、県外からの例のない規模の流入が、これまでの日常生活を様変わりさせた。作業員の実情と、県民の思いを探る。

 (2016年1月6日付掲載)