【復興の道標・作業員-3】見えない下請け「暗躍」 人手...自前で集まらず

 

 「除染で信頼できるのは『2次』まで」

 作業員同士で交わされている言葉を、札幌市の男性(64)は身に染みて感じた。男性は昨年9月まで、相双の国直轄除染現場で「4次下請け」の建設会社の作業員として働いたが、賃金の一部を受け取っていない。男性は支払うよう催促し続けているが、会社からの明確な回答は、今もない。

 男性がインターネット上の求人に応募し、この建設会社と雇用契約を交わしたのは昨年6月。その後、除染作業に従事したが、給与の支払いが滞りがちになった。社長は「上の会社と話をつけている」など、何かと理由を付けるようになった。

 昨年9月、社長から「あしたから仕事はないから来なくていい」と前置きなく言われ、男性は退社を決意した。休業手当や9月分の給与など未払いの賃金支払いを求めた後、メールで「ブラックリストに載って福島で働けなくなるぞ」などと脅迫めいた内容のメッセージが届き始めた。

 全国から集まる除染作業員の雇用をめぐるトラブルは後を絶たない。福島労働局が2015(平成27)年1~6月に実施した除染事業者に対する監督指導では、342事業者のうち法令違反があったのは233事業者で、全体の68.1%を占める。14年と13年の同時期はそれぞれ59.4%、68%で、状況は改善されていない。

 違反の続発を受け、大手ゼネコンなどの元請けは下請けへの指導を強化。大半の請負で元請けの目が届く「3次下請けまで」と自主規制を行っている。ただ、実際は「見えない下請け」が作業員を集める図式として定着、不正の温床になっている。男性が契約を交わしたのもこうした会社だった可能性がある。

 昨年11月、楢葉町の除染現場で違法に派遣された労働者を働かせたとして、職業安定法違反の疑いで2次下請けの社長の男らが逮捕され、罰金刑を受けた。実際は3次下請けが集めた労働者を、雇用契約書を偽造して2次下請けの作業員に見せ掛ける―という手口だった。「人手が必要だが自前では全てを集められない。一方で自主規制の縛りもある。そこに、違法な業者が関与する余地が生まれる」。労働局の関係者は指摘する。

 「信頼できる業者だけなら問題が生じる可能性は低いが、(それを排除すれば)除染が思うように進まなくなる」と問題の根深さを指摘する。違法な業者が後を絶たない「もぐらたたき」の状況が続く。

 (2016年1月9日付掲載)