【復興の道標・ゆがみの構図-7】福島をおとしめるな 努力続ける福島県民

 
「人々が乗り捨てて逃げた車」と説明する写真を掲載した「DAYS JAPAN」12月号。同誌のほかにも原発事故後の本県を、現実とは異なる形で取り上げるケースは少なくない

 「どこが収束か 事故5年目を迎える福島 原発事故が奪った村」。月刊誌「DAYS JAPAN」12月号。そんな文字と共に、草が生い茂る中に車両が並ぶ写真が掲載された。ポーランド人写真家が写したもので「人々が乗り捨てて逃げた車が、4年半の歳月を経て草に覆われていた」と説明書きが添えられた。

 今月2日、雑誌を発行するデイズジャパンは同社のHPで「『人々が乗り捨てて逃げた車』とあるのは誤りで、正しくは『投棄された車』でした」と訂正、謝罪した。原発事故前から廃棄されていた車だった可能性が高いことが分かったと説明した。撮影場所も双葉町と誤って記載していて、実際は富岡町だった。

 「地元の人に話を聞いていれば間違いは起こらなかったはず。原発事故は怖いと衝撃的に伝えようとしたのだろうが、思考と手法が安易すぎる」。避難区域内の歴史資料保存などに取り組む福島大教授の阿部浩一(48)は指摘する。

 県内では、震災と原発事故の被害を物語る『震災遺産』を保存する活動が進む。阿部は「震災遺産の活動では地元の人が専門家と共に対象を見極める。県外の人も、もう少し被災地に寄り添った取材をしてほしい」

 同誌発行人の広河隆一(72)は福島民友新聞社の取材に「『被害をことさら強調しようとした』とみられることは残念。誤りがあったのは確かで、あの場所をあらためて取材し直したい」と語った。

 原発事故後、本県の姿は時としてゆがんだ形で外部に発信された。そうした中、県民はそれぞれの努力を続ける。

 「県産品のイメージを、原発事故前に戻すのは至難の業だ。新たな競争戦略が必要」。伊達市梁川町の農業ベンチャー「マクタアメニティ」社長の幕田武広(58)は言う。

 原発事故前、県内農家の野菜を首都圏の百貨店などに安定供給するシステムを構築したが事故で状況は一変。風評払拭(ふっしょく)のため革新的な取り組みを始めた。生産者が携帯電話などで撮影した野菜の画像を分析して鮮度や味を評価し、消費者への情報公開や現場での品質改善につなげる仕組みづくりだ。「この方式で売れる保証はない。でもうちはベンチャーだから」。長期的視野で挑戦を続けるつもりだ。

 幕田は国、東京電力に「責任を果たせ」と働き掛けていくことは必要だと感じている。一方で、県外で原発事故の被害が本来の姿から外れて強調されるケースには疑問を呈する。「原発反対を主張するのはいいが、その主張のために福島をおとしめるのは、どうなのか」(文中敬称略)

 (2016年2月6日付掲載)

※「ゆがみの構図」編は今回でおわります。近日中に番外編を掲載。