「ゆがみの構図」編へ識者の意見【番外編 下】今野順夫氏・コープふくしま理事長

 
今野順夫氏

 ◆今野順夫氏(元福島大学長)

 県民の努力の発信必要

 本県から離れた地域では、原発事故発生直後の放射線不安の情報が今も残り、固定化しているケースがある。県民の意識とのずれも一部で生じていて、他県の人と接した際にこの落差に気付く県民もいるのではないか。

 5年前に植え付けられた固定観念は、そう簡単には氷解しない。事故直後、専門家とされる人たちがそれぞれ異なる意見を述べたことも、人々に不安を与える要因となった。専門家としての在り方が問われる事態で、事故前にはなかったことだ。

 この5年間、県民は放射線をただ心配するだけではなく、農産物の放射性物質検査など具体的に行動してきた。例えばコープふくしまは食品に含まれる放射性物質を測る「陰膳方式」による食事調査を続けている。2014(平成26)年度に調査した100家庭のうち、1キロ当たり1ベクレル以上のセシウムが検出された家庭はなかった。連載第1回で描かれた絵本作家の松本春野さんは、そうした県民の努力を理解してくれた人だ。

 「福島は大丈夫」と、ことさら強調する必要はないが、県民のこれまでの努力について情報発信していくことは必要だ。

 (2016年2月16日付掲載)